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森さんちに、おじゃましました “北欧” 経由、暮らしを楽しむ「これでいいんだ!」のアイデアvol.33

プロフィール
森 百合子mori yuriko
北欧5ヶ国で取材を重ね、旅や暮らし、デザインの情報を中心に発信。著書に『3日でまわる北欧』(トゥーヴァージンズ)、『北欧おみやげ手帖』(主婦の友社)、『いろはに北欧 わたしに“ちょうどいい”旅の作り方』(ダイヤモンド・ビッグ社)ほか。執筆活動に加えて、NHK Eテレ『趣味どきっ!』、NHK 総合『世界はほしいモノにあふれてる』などメディア出演や講演を通じて北欧の魅力を伝えている。

本場のヒュッゲ

ヒュッゲという言葉を最初に耳にしたのはいつのことだったでしょうか。記憶に残っているのはもう12年以上前のこと。デンマークの友人の家でクリスマスイブを過ごすことになり、その日のホスト役だった友人のパートナーが伝統のクリスマス料理である鴨肉をせっせと調理している間、「まだ少し準備に時間がかかりそうね」と友人と二人でソファに腰掛けて、ナッツやチョコレートをつまみながら大好きなビンテージの雑誌を読みふけっていた時。友人が「これぞヒュッゲね」と教えてくれたのでした。


デンマーク語で「居心地のいい時間や空間」を指す言葉とされるヒュッゲ。デンマークが幸せの国として注目されたこととも相まって、この言葉は世界的に知られるようになりました。ヒュッゲを紹介する本や特集記事は日本でもたくさん出されていますが、さてヒュッゲにかかせないものといえば何でしょう?

デンマークを旅する時、またデンマーク出身の方と話す機会があると、「ヒュッゲ」ってあなたにとってどんな時間ですか?と尋ねることにしています。ひとりじゃヒュッゲはできないわ!との言葉にはっとしたこともありますし、派手なイベントや海外旅行もヒュッゲとは違うよう。これまでに聞いた返事からうかがえる、ヒュッゲに必要なものといえば一緒に過ごす家族や友人、それからちょっとしたおいしいもの。これも、すごいごちそうというよりは日々の食事の延長にあるような味や、いつもよりちょっとだけ良いコーヒーやチョコレートといったささやかな贅沢の方がしっくりくるのだとか。森のそばのコテージや庭先で、家族とゆっくり過ごす時間。それから安心できる空間と灯り。そう、ヒュッゲにおいて灯りはかなり重要な役割を果たしているようです。


暗い冬にともすキャンドルの光や暖炉にゆらめく炎こそヒュッゲと話す人もいますし、窓辺やサイドテーブルなど部屋のあちこちに置かれた小さな灯りが照らす、居心地のいい部屋を思い浮かべる人もいます。

数年前に日本でも公開された『わたしの叔父さん』というデンマーク映画を見た時に、ヒュッゲについて改めて考えました。この映画はデンマークの農村部に暮らす若い女性が主人公で、両親を亡くした彼女が、酪農を営む叔父を手伝いながら暮らす日々が丁寧に描かれています。叔父と過ごすささやかな日常をいつまでも続けたいと願う主人公は、自分に好意を寄せてくれる男性や、町に出て獣医になる夢との間で悩みます。

全編を通して、毎朝の食事の支度から眠りにつくまでの日常が淡々と繰り返されるのですが、とくに印象に残っているのが夕食後のシーンです。日も暮れて暗い部屋の中にはぽつりぽつりと照明が灯って、ボードゲームをしたり、ソファでごろりとしながら言葉少なに過ごす二人の時間がなんともいえず愛おしい。クリスマスに友人と過ごしたヒュッゲな時間と重なるところもあって、しみじみといいシーンだったなあ……と今も思い出すのです。

そしてあれがもしピカピカに明るい部屋だったら、この二人はこんな風に過ごせたのだろうか、とも思いました。ちなみに叔父さん役の男性は主人公を演じた女性の本当の叔父さんで、舞台となる叔父さんの家も実際に暮らしている家、と聞いて灯りの使い方の自然さにも納得がいきました。本作は配信でも見られますので、本場のヒュッゲな灯りに興味のある方にはぜひ見ていただきたいです。

さて「ヒュッゲとはどんな状態であるか?」を観察してきた私自身も、ヒュッゲな時間にはちょうどいい灯りがあるもの、と身にしみて感じるようになりました。わが家の中心となる灯りは、北欧の照明です。えいやっとがんばって購入した憧れのメーカーの照明から、蚤の市で見つけたビンテージの照明スタンドやキャンドルホルダーなどさまざまな灯りを組み合わせています。


リビングのソファの前に吊るしているのは、デンマークのアンティークショップで手に入れたもの。キスチョコを思わせるユニークな形に惹かれて購入したのですが、「この照明デザイナーは60年代当時は、ポール・ヘニングセン(ルイス・ポールセン社で数多くの名作照明を手掛けたデザイナー)と並ぶくらい人気があったんだよ!」と、けっして愛想がいいとはいえない店主がその時だけは熱く語ってくれたことも合わせて思い出します。こうして手に入れた時の風景がよみがえるようなアイテムも、ヒュッゲな空間づくりにひと役買っているといえますね。


猫たちに人気なのは窓辺に置いたブロックランプ。ガラスの中に電球を閉じ込めたようなデザインが素敵なのですが、どうも枕にちょうどいいようです……。

そうそう、北欧の家ではカーテンをしていないことが多いので、町を歩いていると窓辺の灯りや部屋の中の照明が目に飛び込んできて、これがまたほっとした気分にさせてくれます。12月になると星型やツリーをかたどった照明などが飾られて、町をあげてクリスマスのムードが高まるのもいいものです。わが家ではデンマークのクリスマスでよく飾られているハート型の飾りを模した照明を使っています。


寒さが増し、日が沈む時間も早くなるこれからの季節は、灯りの存在感をいつも以上に楽しめます。ええ、そうなんです。以前は寒くて暗いのは苦手と思っていたのですが、灯りのおかげで秋から冬にかけてヒュッゲな時間が増えました!そしてこれはやっぱり、冬の長い国ゆえに生み出された知恵なんだなあと思うのです。

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