デザインで繋ぐ、松屋の地域共創
松屋銀座では「デザインの松屋」として、60年以上もの長きに渡り、ショーウィンドウや店内の吹き抜けスペースに、季節や時代の潮流を捉えたデザインの装飾展示を行い、ご好評を頂いてきました。
このスペースを、現在、そして未来へ向けさらに有効活用していくために、日本の伝統ある良いモノ作りをしている地域と作り手を発掘。「デザインの松屋」のノウハウでディレクションしたインスタレーションを制作し展示するという、新たな試みが実現しています。このインスタレーションは銀座の目抜き通りに面したショーウインドウ、店内へ訪れてくださるお客さま、松屋へと繋がる地下鉄の駅構内と、銀座の街を行き交う多くの人々にご覧いただいており、地域のPRに繋がっています。
そして、昨今のSDGs(持続可能な開発目標)を体現し遂行していくために、一度使用したインスタレーションをこのプロジェクトに賛同する他企業に貸与することで、新たな認知や発展に繋がり、さらには廃棄ロスの低減にも繋がると考えました。他企業としても、ゼロから莫大な費用と時間をかけずに、SDGsを示すことが可能となります。他企業へとバトンを繋ぐことにより、私たち松屋銀座のみならず、日本の広域にわたり、地域とモノ作り双方のPRに貢献する機会が生まれることも重要な要素と捉えています。実際に、昨年には高知県の組子のインスタレーションが貸与され、大阪の街を彩りました。
こうした活動を行うことで得た貸与費の一部が、また次の地域へと繋がり、作り手との出会いを生み出してくれます。日本各地には、地域に根ざした伝統的なモノ作りを行っている、知られざる工芸品がまだまだ存在しています。地域と工芸、そのものに着目を集め、松屋の地域共創を通じて機会を創出し、継続、拡がっていくことこそが、地域文化に成せる真の貢献だと考えています。
では、ここで地域共創プロジェクトの代表事例をご紹介いたします。(展示は現在は終了しております。)
2020年12月- 2021年1月 二〇二〇ありがとう、二〇二一おめでとう。
日本空間デザイン賞2021「銀賞」及び「サステナブル空間賞」受賞。
徳島県上板町を拠点とする、若手6人による新世代の藍師・染師集団「BUAISOU」とのコラボレーション。「藍師」と呼ばれる製造者の減少、後継者不足の現状を踏まえ、銀座の街から多くの人々へ藍の文化を発信。巨大な暖簾のインスタレーションでは大きな反響と好評を博しました。
2021年7月 日本再発見/銀座ミツバチプロジェクト
“組子”は日本に古くから伝わる木工の伝統技法。需要が激減している状況を変えるべく、高知県「土佐組子」を立ち上げた岩本大輔さんとコラボレーション。組子に磁石を組み込むアイデアで、組子のパーツを簡単に組み換え、何度でもかたちを変えられる新しい形の“自在組子”装飾を実現させました。
2021年12月 Christmas2021 銀座ディスプレイコンテスト2021
「日本空間デザイン協会賞」「銀座通連合会優秀賞」受賞
青森県に古くから伝わる夏の風物詩「ねぶた」。この数年、コロナ禍により「ねぶた祭」の中止が余儀なくされていた状況の中、初の女性ねぶた師、北村麻子さんに総数35点もの制作を依頼。めくるめくクリスマスの世界を、多幸感溢れるねぶたで表現して頂きました。
本プロジェクトをきっかけに、展覧会開催へと繋がった事例をご紹介いたします。
2021年12月27日(月)-2022年2月21日(月)7階デザインギャラリー1953
主催:日本デザインコミッティー
クリエイティブディレクション:佐藤卓
BUAISOUが制作した1枚の藍染ポスターを、「⾊」、「質感」、「グラフィック」など16項⽬に分類し、クリエイティブディレクター、佐藤卓氏が解剖の⼿法で読み解いて⾏く企画展。地域共創プロジェクトをきっかけに、展覧会へと発展したケースです。
また、松屋限定のオリジナル商品も販売。お客さまに、実際に手に取り、藍染めが持つ佇まいや品質を感じて頂ける良い機会に繋がりました。(※現在松屋オンラインストアのみで販売中)
松屋の地域共創プロジェクトに共感していただいた、企業とのコラボレーション。
装飾物の廃棄ロスの削減、新たな循環のバトンを繋ぐ試みが実施されています。
北欧諸国のクリスマス文化をイメージし、「高知県の組子」をリメイク。縁起のいい和柄の組子を、フィンランドに伝わる大きなヒンメリに見立てた装飾にリデザインし、新たな息吹が吹き込まれたインスタレーションが館内を彩りました。
プロジェクトを基に、ご依頼頂いた他企業さまに向け、地域の伝統工芸・産業・文化を活用したオリジナルの装飾ブラン作成も手がけています。
2022年4月
宗家 源吉兆庵さまよりご依頼。青森県のねぶたを使用した装飾プランを提案・実施。
最後に、松屋の地域共創装飾プロジェクトリーダーである柴田亨一郎さんに、これまでの変遷と今後の展望について、お話しを伺いました。
− プロジェクト発足の経緯と現在地点について、お聞かせください。
柴田:「このプロジェクトは、先にご紹介した通り、地方にある伝統の文化や工芸など、まだまだ知られていないモノ作りとその背景を、松屋を介在して発信することで多くの方に認知して頂き、また作り手にとってもあらたな機会が得られるのではないかと考えたことから始まりました。コロナ禍において、経済的に厳しい状況に置かれた小さな産業そのものを、少しでも応援したいという想いもありました。プロジェクトの構想段階から考えると、約3年が経過しますが、SDGs(持続可能な開発目標)を本質的に行うため、装飾物を他企業へ貸与し、廃棄ロス削減に繋がる仕組みを取り入れるなど、時代に則した進化を続けながら今日に至っています」。
― 毎回新作のインスタレーションが展示されると、多くの反響があると伺っています。
柴田:「おかげさまで多くのお客さまや企業の方から、注目を頂いており、実際にプロジェクトに参加していただいた作り手の方達からも感謝の声を頂いています。松屋での展示は、大きなショーウィンドウや吹き抜けスペースがあるので、通常のモノ作りとはサイズもアイデアも大きなものに変化させる必要があるんです。クリエーションとしても新たな刺激や挑戦、そして発見が多く得られる機会に繋がっていると思います。そういった点からも、仕事の幅が拡がるきっかけになっていれば、嬉しく思います」。
― 松屋の地域共創が目指すもの。今後の展望をお聞かせください。
柴田:「このプロジェクトは、松屋が発信拠点のハブとなることで、まず銀座から日本全国へ、そしてさらには世界に向けて拡がりをみせる可能性を秘めたものだと思っています。日本が誇る伝統工芸、その背景にある地域文化やモノ作りの価値に、海外に通用するデザインを加え、さらに進化、循環させて行くという取り組みはまだ世界でも類を見ないのではないでしょうか。まずは日本国内でもっと定着させ、いずれは海外へも展開して行けたら、こんな素晴らしいことはないですね」。
松屋が取り組み、繋がる地域共創プロジェクト。
これからも大きな展望を秘め、発展していくことを楽しみにしていきたいと思います。