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地方とともに豊かになる、それが松屋銀座のお正月。

2021年、皆様とともに新しい年を迎える松屋銀座。来る年に、縁起のいい日本の藍色で全館を彩りました。松屋がコラボレーションしたのは、日本一の藍の産地として知られる徳島県に染めの工房を構える「BUAISOU(ぶあいそう)」と、「デザインの松屋」のクリエイティブディレクターでもある佐藤卓さん。迎春を祝う彩りの背景には、様々な思いがありました。
2021年の意気を込めた暖簾と、徳島の藍による地方創生。

1階から7階までの吹き抜け空間を飾る、10枚の巨大な吊り暖簾。幸運を願う藍を纏った福助が暖簾の前でお辞儀をするショーウィンドウに、地下1階通路の藍染ポスターと、2021年の幕開けにふさわしい大規模なインスタレーションが完成しています。松や鶴など、古くから松屋のアイコンである和のデザインをあしらった藍による染め物は、徳島県上板町を拠点とするBUAISOUに特別にお願いしました。

松屋では地方創生を推進する目的で、商品を通して地方の魅力を発信するなど、これまでも日本各地のものづくりを育むことが使命と考えてきました。2020年12月の福井県のリボンを使ったインスタレーションもそのひとつで、クリスマスシーズンを華やかに飾るばかりではなく、その背景には、社会的課題への取り組みの視点があります。今回の徳島県の藍染暖簾も、松屋が全国に足を延ばして視察を重ねるなかで、地方創生の取り組みのひとつとして生まれました。

写真上/牛舎を改装したBUAISOUのアトリエ。すぐ側を吉野川が流れる。写真中/藍の葉を発酵させる蒅造りの工程。週に1度かき混ぜ、約4ヶ月かけて蒅として完成する。むしろの中は発酵熱で温かい。写真下/天然のものだけを材料にした、吸い込まれるように深い藍の染め液。

藍染のもとになる天然染料「蒅(すくも)」の製造で日本一を誇る徳島県では、吉野川の度重なる洪水で陸に運ばれた土が豊かな土壌となり、染めの原料となる「藍」の栽培に必要な豊富な水もあり、古くから藍染業で栄えてきました。しかし、蒅を藍からつくる「藍師」と呼ばれる製造者も、江戸時代に何千軒とあったものが現在は徳島にもたったの5軒となり、後を継ぐ人は多くありません。そんな現状をふまえ、松屋は銀座の街から多くの人へ、日本が誇る素晴らしい藍の文化を伝え、地方にあってなかなか知られていない藍の現状を発信するためにも、そして2021年に152回目の新たな年を迎える意気を示すためにも「世界一大きい暖簾」を店にかけよう、と考えました。

写真上/暖簾やポスターの確認のために、制作途中のBUAISOUのアトリエを訪れた佐藤卓さん。初めて藍染の現場を体験した。写真中/美しいグラデーションで松の模様を表現したポスター。松屋のロゴがくっきりと浮かび上がる。写真下/今回のポスターのために特別に作った型。

暖簾のデザインを手掛けたグラフィックデザイナーの佐藤卓さんとは、昨年まで創業150周年のプロジェクトとして「デザインの松屋」を掲げた取り組みを共に行ってきました。ひとつの仕事を受注発注する関係でなく、松屋をより洗練させるために、社員教育からカウンターの中の整理整頓のディテールまで、あらゆるデザインを追求する取り組みのなかに、今回のようなものづくりも含まれています。

写真上/BUAISOUの藍畑。4〜6月に種を撒き、収穫する6〜8月のピークには腰ぐらいまでの高さになる。花が種に変わる12月頃には畑一面が赤色に。写真中/赤い藍の種と、藍色に染まった楮さんの手。写真下/藍染のポスターをバックに佐藤さんとBUAISOUのメンバーら。

藍を育て、染める。BUAISOUという人々。

松屋が今回のプロジェクトを一緒に取り組むことを決めたBUAISOUは、若手6人による新世代の藍師・染師です。彼らは、原料となる藍の栽培から、蒅造り、染色、製品化まで、通常は分業制でやる作業を一貫して行い、海外からも高い評価を得ています。春に種を撒き、夏に収穫した藍の葉から、染めの原料となる蒅が完成するのは真冬の2月。夏に葉を収穫してから約4ヶ月間、1週間に1度、藍の葉をかき混ぜて発酵させるのは、特に手間と体力のかかる作業です。また、藍は自然農法に近い形で育て、染めの際にも薬品を使用しません。

写真上/染めの工程をひとつひとつ説明してくれた楮さん。写真中/1日ごとに小さな布を染めたものをノートに貼り、日々少しずつ変わっていく染液の状態を見極めている。写真下/大きな暖簾を染めるために作った専用の木枠。ここに布を吊り、木枠を下ろして液に漬ける。

9メートルの長さの巨大な暖簾や、繊細なグラフィックのポスターを藍染でつくるという試みは、彼らにとっても新しい挑戦でした。BUAISOU代表の楮覚郎さんは「伝統ではなく、文化は残しながらも自分達らしい新しいことをやりたいという思いがあり、最初に松屋さんから『世界一大きな暖簾をつくりたい』と聞いた時、面白い、ぜひやってみたいと思いました。ここまでのサイズの暖簾はつくったことがなかったので、これを染めるための道具を一から考えて作り、普段は抜染でやるところを型染めで挑戦することを決めました。すべてが本当に楽しい作業でした」といいます。指定の長さを染めるために深いタンクを新設したり、通常の白抜きと逆で、染める部分が少ない松の葉のポスターのために特殊な型紙をつくったり、と、試行錯誤の日々を重ねたのです。

写真上/最後は手を入れて長さを確認しながら、静かに染め液から引き上げる。写真中/染めた布をお湯で洗う作業。型糊のぬめりをよく取ってから、さらに数日かけて水洗いする。写真下/松屋のロゴを染めるための型。カッターで専用シートを丁寧に切り取り、ロゴを再現している。

「松屋さんの特別な時期のウインドウを飾らせていただけるのは大変有り難いことです。日本や世界が不安定ななか、新しい年へ踏み出すためのクリエイションは、僕らにとっても一生記憶に残る仕事になると思います。東京だけではなく、全世界に藍染の活動を広げていきたい。BUAISOUの技術や職人技とともに、新年に適したおめでたいデザインを楽しんでもらえたらうれしいです」(BUAISOU楮さん)

写真上/ポスターの最終確認中。染める部分が少ない白色が背景のデザインには、より多くの工夫が必要となった。写真中/松の模様の型を切る作業。写真下/細かいパーツを正確に配置するため、ツリと呼ばれる橋を作って柄をつなぎ、最後に不要なツリの部分をカットする。

デザイナーのわがままが新しいクリエイションに。

吹き抜けの巨大暖簾やショーウィンドウ、ポスターを手掛けた佐藤卓さんは、松屋のデザイン、そして地方創生への取り組みに共感し、様々な活動を共にするパートナーです。作業も佳境を迎えたBUAISOUを訪れた佐藤さんは、事前に現場を知っていたら、巨大なバナーやポスターは提案できなかったかもしれないと言います。 「松屋銀座の吹き抜け空間で、BUAISOUさんと何かやりたいとのご提案を受け、藍染の現場も知らない私は、大胆にも無謀なまでに巨大なバナーを提案しました。無謀で無知な私の提案に彼らは、制作のための機材まで拡張して挑んでくれました。今回の作品は、松屋の地方創生への取り組みと、現場を知らないデザイン、そして前向きなBUAISOUさんの取り組みが重ね合わされて出来上がった奇跡の産物であると言えます」(佐藤卓さん)

コンセプトをあえて言葉にすれば、「新しい伝統」という佐藤さん。「地域に育まれた日本の手技を現代に生かす、松屋の素晴らしい取り組みと、分業化された伝統に縛られることなく、藍から自分達で育て、製品化までを一貫して行うBUAISOUの新しい取り組みに、拍手を送りたいと思います。この度、松屋銀座と銀座地下通路で展示される本物の藍染作品群を、可能であればオンラインではなく、どうぞじっくり、直接ご覧いただきたいと思います。地下通路のポスターは、汚れない程度であれば、触ってその質感を感じてください」(佐藤卓さん)

松屋を象徴する佐藤卓さんのデザインと、若手職人のフレッシュな精神やアイデアが混じり合うことで、新年に相応しい、新しい化学反応が生まれました。このインスタレーションを通して、松屋の地方創生への強い思い、美しく華やかな強さを持つ佐藤卓さんのデザインと、BUAISOUのチャレンジングな技と精神、徳島の藍文化をご堪能ください。

(暖簾掲出期間:2021年1月5日まで)

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