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ソムリエ郁子の365日ワインの旅 第3回 日本篇

ワインの法律、歴史、造り手など、たくさんの知識は ワインの楽しみ方を広げますが、詳しくなくても問題なし。 ワインは、美味しい。 美味しいものは、人をしあわせにする。 このコラムでは、松屋銀座のワイン売場「グルマルシェ ヴァン」にて 日々、ワインの魅力をお客様にお伝えしつづける「ソムリエ郁子」が、 気軽に楽しめるワインのお話を、生産国ごとにお届けしていきます。
プロフィール
ソムリエ郁子(そむりえ いくこ)
ソムリエの資格を持つ、松屋銀座の和洋酒バイヤー。お酒を飲むと、グラス1杯でトリップできる能力あり。好きな食べ物はりんご。シードルやカルバドスも大好き。最近ハマっているのは、娘と地元の銭湯に行くこと。

日本の食卓に優しく寄り添う、日本ワイン。

国産ブドウのみを原料とし、日本で製造されたワイン、「日本ワイン」。

世界の名だたる生産国のワインに比べると歴史が浅く、その良さはまだまだ知られていないのが実情ですが、最近は政治的な会合で使われたり、また、国際的なコンクールで賞を受賞したりと、今、注目を集めつつあります。

 

「日本ワイン」の特長を一言で表すと、「和食に合う」ということになるでしょう。

赤も、白も、繊細で奥ゆかしさがありながらも、芯はしっかりしていて、食事に優しく寄り添ってくれる・・・。まるで、大和撫子のようでもあり、郁子もぜひ見習いたいところです。

 

今回は、そんな「日本ワイン」についてもっとよく知るために、その先駆けとして100年以上にわたり、日本でのワイン造りに取り組み続けるサントリー社の自社農園、山梨県にある、「登美の丘ワイナリー」を訪れてきました。

 

ソムリエ郁子が、8月のよく晴れた日に、この地で実際に見て、聞いて、触れて、味わって、感じたことをレポートし、皆様に「日本ワイン」の魅力をお伝えいたします。

 

ソムリエ郁子がゆく!「サントリー・登美の丘ワイナリー」

登美の丘ワイナリーは、豊かな自然に囲まれた150haの広大な丘の上にあるワイナリー。115年もの間、ブドウの栽培から、醸造、瓶詰め、熟成、販売まで、一貫したワイン造りを行っています。

 

標高600mの高さに位置するワイナリーからの眺望は大変素晴らしく、山々が連なる中、一際高い富士山、そして甲府盆地が眼下に。

 

1907年にかの有名な「赤玉ポートワイン」を発売して以来、日本ならではの美味しいワイン造りに挑戦し続けるサントリー。

2022年には、「ワイン造りのすべてはブドウ畑から始まる」という想いの込められた「FROM FARM」というコンセプトのもと、日本の風土の中で、造り手たちの創意工夫と愛情により、土地ごとの特長が丁寧に表現された日本ワインを、多くの人に届けることを目指すブランド「サントリーフロムファーム」が誕生。

ここ、登美の丘ワイナリーで造られるワインは、すべてこのシリーズのものになるそうです。

 

ワインの源、自然の恵みあふれるブドウ畑。

はじめに向かったのはブドウ畑。

25haもの広大な土地で、ブドウの栽培をはじめワイン造りのすべての工程を、なんとたった30人で、ほとんど手作業で行っているのだそう!

 

登美の丘ワイナリーのブドウ畑の特長は、雨が少なく、日照時間が長いこと。

雨が多い土地では湿気も多くなり、カビの病気が発生しやすくなるため、健全なワインが造れなくなってしまうといいます。

また、雨雲が少ない分、日照時間が長くなるので、ブドウはたっぷり太陽の光を浴びて糖分を作り出すことができ、それがワインの美味しさにつながっているとのこと。

 

山を切り拓いて建てられた、冷涼な貯蔵庫。

続いて貯蔵庫の見学へ。

 

1950年代に建てられたという、歴史を感じる、趣のある建物。山の斜面に貯蔵庫があるというのは、大自然の中のワイナリーならでは。

樽と瓶、それぞれの熟成庫を見学し、いずれも天然の涼しさで、ワインにはとても良い環境という印象を抱きました。

 

登美の丘ワイナリー自慢のワインを飲み比べ!

 

最後に、ワインについて色々な説明を伺いながら、数種類を試飲。

やはりワイナリーを代表する「登美の丘 甲州」「登美の丘 赤」「登美 赤」の3銘柄からは、日本の山梨県で造られるワインならではの、和のテイストのようなものをほんのりと感じ、登美の丘のテロワールに触れられたような思いが。

ソムリエ郁子×サントリー 登美の丘ワイナリー栽培技師長・大山弘平氏 スペシャル対談 「登美の丘のテロワールと、もっと遠くへ」

今回、ソムリエ郁子は、登美の丘ワイナリーの栽培技師長・大山弘平さんとお会いし、登美の丘ワイナリーならではのブドウの栽培方法やワイン造りにかける思いについて、お伺いしました。

 

ソムリエ郁子 大山さんは栽培技師長でいらっしゃるとのことですが、主なお仕事内容を教えていただけますでしょうか?

 

大山さん ブドウの栽培をするとともに、この先、サントリーがどんな日本ワインを造っていったらいいのかについて考え、みんなと目標やゴールを決めています。ワインの良し悪しは、100%ブドウの品質で決まると言っても過言ではないんですよね。ほかのお酒と違って、原料の品質が味わいに直結するので、私自身、ブドウの粒の中でワインを造っているようなイメージをもって仕事をしています。

 

ソムリエ郁子 畑でのお仕事に加え、「サントリーフロムファーム」がどのような目的に向かっているかをお決めになっている、ということでしょうか?

 

大山さん そうですね。ワイナリーごとに目指すものは違うのですが。サントリーでは、産地ごとに、各畑で、「このテロワールであれば、こういう良さを持ったワインができそうだ」「こういうワインを造りたい」というのをみんなで話し合って決めてから、どんな栽培方法にするか、どんな醸造方法にするかなど逆算してワインを造っていくんです。それがもしかするとほかのワイナリーさんと違うところかなと。

日本でワインを造る、ということ。

ソムリエ郁子 テロワールといえば、サントリーさんはフランスのボルドー地方メドック地区の名門シャトー「シャトー ラグランジュ」をお持ちでいらっしゃいますが、登美の丘のテロワールというのは、メドック地区のそれに近い部分はあるのでしょうか?

 

大山さん それはおそらく、全然違うと思います。

 

ソムリエ郁子 そうなんですね。

 

大山さん 気象条件や土壌の情報を見ていくと、風土や環境が全く異なるなと。メドックの土壌は礫(れき)が主役になってきますが、登美の丘の土壌は全体的に粘土質で、やや水もちがいい。また、雨の多さもフランスとは全然違うので、我々には工夫がいるんですよね。ありのままの生育環境を受け入れるのではなくて、その粘土質の土を課題と感じた場合はどうやったら水捌けよくできるかについて考えよう、という風に。

 

ソムリエ郁子 なるほど・・・。

 

大山さん 例えば、原則として除草剤を使わずに、草が生えた状態の畑で作物を育てる「草生栽培」。草を根こそぎ切るのではなく、大きく伸びたら刈り込む、というのを繰り返しやり続け、草の根に付く微生物を増やすことによって、自然の力で粘土質の土を耕し、柔らかくするための工夫をしています。「シャトー ラグランジュ」とは、いいものを造る、という目標は共通していますが、我々はこの土地に合った作戦を考えながら、そこに向かって日々励んでいます。

「やってみなはれ」精神が息づく、「登美の丘 赤」。

ソムリエ郁子 先ほど、そんな登美の丘ワイナリーを代表する赤ワインのひとつ「登美の丘 赤」を美味しくいただきましたが、様々な品種のブドウがブレンドされている中で、ボルドー地方などでは補完品種として使用されることの多い「プチ・ヴェルド」を、主要品種に持ってこられているというのが、個人的には非常にチャレンジングだなと思いまして・・・。

 

大山さん そうですね。まあこれはすごく長いレンジの話になるんですが。私は、そもそもブドウの品種っていうのは、テロワールをワインボトルに詰めるための手段だと思っているんです。ブドウの品種ありき、ということではなくて、まずはその土地のテロワールを飲み物に変化させるために最適なブドウが必要なのであって、そこから品種を選ぶ必要性が生じる、という考え方です。

 

ソムリエ郁子 なるほど。

 

大山さん ワインという名の液体を通して、実は、風土や環境といったその土地の特徴を飲んでいる。私はワインをそんな風に捉えていて。その上で、今、登美の丘のテロワールを表現するのに最も適切な品種は何かというと、プチ・ヴェルドだった、と。今から40〜50年前、ボルドーワインに追いつけ追い越せと言っていた時代には、やはりカベルネ・ソーヴィニヨンが主体でしたし、2000年代に入るとメルロに移行してきて。そして、メルロも厳しくなってきたという時に、待っていた品種がプチ・ヴェルドだったっていう。

 

ソムリエ郁子 その主要品種の切り替えというのは、地球温暖化など、気候変動によるところが大きいのでしょうか?

 

大山さん それもあるんじゃないかとは思います。そして我々は、品種の選択に限らず、栽培方法や醸造方法の変化なども含めて、その時代の環境に合った一番いいものを目指していっている、ということが言えると。

 

大山さん ・・・といってもプチ・ヴェルドも、もう30年前から植えてたんですけどね。

 

ソムリエ郁子 そうだったのですね!

 

大山さん 我々の大先輩たちが、今の世の中のことを予想しながら、先駆的に植えてくれていて。それが徐々に、環境変化とともに広がっていって、というところですね。なので、チャレンジングだったのは、90年代の大先輩たちなんです。

 

ソムリエ郁子 なるほど・・・。

 

大山さん ただ、サントリーは、まさに「やってみなはれ」精神というか、そういう連続的な挑戦をずっと続けていて。私たちはそういう思想や哲学を大事にしながら100年以上ワインを造ってきているので、私の代でも、今の時代には関係ないだろうなって思うようなチャレンジをするなど、後輩たちにバトンタッチをしていくということも意識はしています。

 

ソムリエ郁子 そんな素晴らしい考え方が、脈々と受け継がれているのですね。「登美の丘 赤」は和のお料理にもきっとよく合うと思うのですが、大山さんのおすすめの召し上がり方を教えていただけますでしょうか。

 

大山さん プチ・ヴェルドは力強い味わいなんですよね。タニックでボディにもパンチがありますので、お肉のようなものがいいかなと。ただ、カリフォルニアのカベルネ・ソーヴィニヨンとかチリワインくらい濃いものではないので、お肉の中でも、どちらかというと少しお醤油を使った料理、すき焼きのような和食寄りのものの方が、より美味しさを引き立たせてくれるかな、と思います。

登美の丘のテロワールが見事に凝縮された、「登美の丘 甲州」。

ソムリエ郁子 白ワインの「登美の丘 甲州」についてもお伺いさせてください。こちらは、「デキャンター・ワールド・ワイン・アワード 2023」にて「プラチナ賞」を受賞するなど、世界的な評価も非常に高く、大山さんご自身も「世界最高レベルの甲州を造る」と宣言されていますよね。

 

大山さん そうですね。

 

ソムリエ郁子 私も個人的に、やはりあの和柑橘の香りのニュアンスがとても特長的だなと感じています。豊かな味わいの中に、この登美の丘ならではのテロワールが感じられるのが大変素晴らしいなと思っているのですが、「登美の丘」の白ワインの品種については、今後も100%甲州でいくと、お考えでしょうか?

 

大山さん 「登美の丘」の白については、やはり今は甲州に力を入れているところはありますね。甲州は、山梨県で歴史的に長く造られていて。熟すのがやや遅い品種なので、温暖化の影響を受けにくいのと、病気に強い一面もあるので、「登美の丘」のブドウの中では、面積的にも収穫量的にも一番多くなっていますね。

 

ソムリエ郁子 そうなのですね。「登美の丘 甲州」は大変レベルが高いので、前々から、日本の食卓には非常に合うなと感じておりました。

 

大山さん ありがとうございます。

 

ソムリエ郁子 大山さんは、「登美の丘 甲州」はどんなお料理と楽しまれますか?

 

大山さん これが、いわゆる鰹だしのようなものとけっこう相性がいいんですよね。「登美の丘 甲州」は、ステンレスのタンクできれいに発酵させたワインに、樽でゆっくり熟成させたワインを14〜15%ほど加えているんですが、その樽で造られたワインがふくよかな感じにさせてくれて。あと、アミノ酸や旨味がほのかに感じられるワインに変化させる、シュール・リーという製法を採用しているので、そのあたりの同調性が効いているというか。

 

ソムリエ郁子 なるほどなるほど。

 

大山さん 例えば水菜と油揚げを炊いたようなものと合わせるのもおすすめです。鶏肉のような白系のお肉とも合うんですけど、より良さが感じられるのは、そういった和テイストのものなのかなと。

 

ソムリエ郁子 やはり和の食卓に!

 

大山さん そういう、だし系のもので炊いたお料理に、カボスとかをキュッとやったようなものと甲州を合わせると、なんかもう、今すぐ飲みたい、みたいになりますね(笑)

 

ソムリエ郁子 たしかに・・・(笑)

 

 

大山さん なんだかすごく合うんですよね。

 

ソムリエ郁子 そうですね。このカボスのニュアンスというのが、「登美の丘 甲州」の香りの中にちょっと少し感じられますよね。

 

大山さん そうなんです。和柑橘の雰囲気がやっぱりあって。

 

ソムリエ郁子 この和柑橘系の感じというのは、やはり、登美の丘のテロワールの特徴なんでしょうか?

 

大山さん そうですね。我々は標高600mの畑で甲州を造っているので、ブドウが時間をかけて成熟し、甘くなっていくんですよね。それによってアロマの幅の広がり、多層的な香りへとつながっているのだと思います。仰るように、和柑橘ぐらいの香りから始まって、オレンジやマンダリンといった熟した柑橘系、そして最後は白桃くらいのところまで感じられる。それが、標高が高いところでゆっくり育まれた甲州の証というか、登美の丘ならではのテロワールが表現できている、ということなんじゃないかと。

 

ソムリエ郁子 仰る通り、非常に多層的なんですけれども、あまり押しつけがましくないというか。ボディも厚すぎず、大変控えめでありながら、繊細な香りの変化が楽しめるところに、日本ワインの真髄が感じられるといいますか・・・。

 

大山さん どうもありがとうございます。甲州ってもともとそんなに力強くなりにくいんですよね。糖度もそこまで上がる品種ではないので、ともすると薄っぽく感じられるということもあり得る。その甲州を世界基準まで持ってくぞとなった時には、やっぱりある程度のボリューム感というか、味わいの濃さみたいなものが必要になると考えていて。そこを目指し続けてきた結果、今回のプラチナ賞受賞にもつながってきているとは思いますが、単純に濃いものを造ればいいという世界でもなく。なのでそこはさじ加減で、バランスを崩さない程度のボリューム感を目指して、日々、志を高くもって取り組んでいるところですね。

 

ソムリエ郁子 サントリー社として求められる、非常に高い水準の品質を保ちつつ、尚且つこの繊細な味わいの部分もしっかりと表現されているというのが、本当に素晴らしいなと。それぞれのワインをいただきながら感じ入っておりました。

 

大山さん ありがとうございます。

美味しいブドウを育むための画期的なアイデア、「副梢栽培(ふくしょうさいばい)」。

ソムリエ郁子 登美の丘ワイナリーでは、様々な栽培技術を用いてブドウ造りをされているとお聞きしました。その中で、大山さんが最もこだわられているものについて、お聞かせいただけますでしょうか。

 

大山さん 自分の意思を込めて始めたのは「副梢栽培」ですね。冒頭で申し上げた通り、良いワインは何から造られるのかというと、良いブドウしかない。じゃあ、「良いブドウって何?」っていうのを、みんなで議論したんですよ。そこで導き出されたのが、「質の良い二次代謝物が豊富に含まれているブドウこそが、良いブドウだろう」、という結論でした。

 

ソムリエ郁子 二次代謝物、ですか?

 

大山さん 光合成で作られた糖や酸といった一次代謝物を原料に、ブドウの中で作られる、ポリフェノールなどといった物質のことです。で、その二次代謝物を増やすためには条件が2つあって、まずひとつ目は、ブドウに水分ストレスを与える、ということ。ブドウに極力水分を与えず、喉が渇いた状態にしておくと、粒がどんどん小さくなると同時に糖度が高くなるので、身がしまった味の濃いブドウが出来上がるんです。

 

ソムリエ郁子 ブドウは、この喉が渇いた状態にある方が美味しく育つ、と?

 

大山さん そうなんです。そしてもうひとつ大事なのが、ブドウが成熟する時期の夜の気温がどれくらい下がるかというところ。ブドウの二次代謝物の産生には、最低気温がどれほど下がるかが影響するんです。でも、だからと言って、我々は神様じゃないので、ブドウが甘くなっていく時期の夜の気温を下げるなんてことはできない。

 

ソムリエ郁子 たしかに・・・!

 

大山さん そこで、ブドウの甘くなる時期を、秋の涼しくなる頃まで遅らせればいいんじゃないかって考えたんです。普通に栽培してしまうと、7月の下旬とかものすごく暑い時にブドウが甘くなろうとするんですが、そのタイミングで甘くなり始めると、無駄にエネルギーを消費して、色もそんなに濃くならず、理想とする甘さにならないんです。それが、涼しい時期に甘くなるスイッチが入ると、より味も色も濃くなる。その原理に基づいて、甘くなる時期をわざとずらす方法を研究されてきた、地元の山梨大学さんと一緒に取り組んでいるのが、「副梢栽培」です。

 

ソムリエ郁子 なるほどなるほど。

 

大山さん ブドウの芽は4月頃に出てきて、5月にかけてぐんぐん大きくなっていくんですが、6月にわざとその枝の先端を切るんです。そこにすでに実っていたブドウの赤ちゃんも一緒に、パチンと。そうなると、ブドウは焦って、次の芽を出す。これが「副梢」と言われるものなんですが、その「副梢」に新たに実ったブドウを収穫するので、約1カ月ほど成長が後ろ倒しになるというわけです。

副梢栽培で育まれるブドウ。8月末にもかかわらず、まだ実が青々としている。

大山さん 2021年から挑戦してきた中で、ここ数年のメルロとは比較にならないくらい高い品質のブドウが採れて。その副梢栽培で育んだメルロを、我々が一番自信を持って造っているフラッグシップワインの「登美 赤」に初めてブレンドすることも叶いました。それだけ画期的な技術と言えるので、今後さらに良いブドウを育めるよう、みんなで精力的に挑み続けているところです。

「日本ワイン」にこそ実る、「人間の工夫」。

ソムリエ郁子 数々の試行錯誤を積み重ねて、確かな味わいのワインを世に出されているのですね。最後に、今のお仕事をされている中で、大山さんが一番やりがいを感じてらっしゃることをお伺いできますか?

 

大山さん ワイン造りって、やっぱり天候の影響もすごく大きいんですけど、その中でも、先ほどの副梢栽培のように、「こういう課題があるのでこう克服したいな」と、自分で考え、実行に移したものが、確実に中身品質に反映されるので、その「人間の工夫」みたいなものが実った時は、やりがいを感じますね。おそらくヨーロッパなどで造られるワインよりも、その「人が手を加える要素」というのが、日本ワインは強いんじゃないかと思うんです。

 

ソムリエ郁子 ああ、なるほど。

 

大山さん やっぱり彼らの土地と比べて、日本は雨がたくさん降るし、夏の気温、最低気温は高いし。もともとの課題が多いんですよね。その土地ごとのテロワールを、そのまま自然の恵みとして受け取ろうとしても、なかなかうまくいかない。そこで造り手が、自分の感性で、畑に立った時の気持ちを大切にしながら、「この土地でどういうものを造ろうか」とか、「そのためにどのように課題を克服していこうか」といったことを考え、実行していくことが、ワイン造りの楽しいところだなと、私は思っています。

 

ソムリエ郁子 今日は大変貴重なお時間をありがとうございました。実際にワイナリーを見学し、大山さんのお話をお伺いする中で、本当に色々と勉強になりました。日本の土地は、やっぱり山がちで、ワインを造る上で過酷な部分も多々あるかと思うのですが、そこで今現在のベストを尽くそうとされる姿が大変印象的で。業界の垣根を超えて、そういった姿勢を、私自身も見習わせていただきたいと思いました。

 

大山さん いえいえ!こちらこそ今日ははるばるお越しいただきありがとうございました。

登美の丘ワイナリー見学を振り返って 〜「日本ワイン」のさらなる可能性〜

 

フランスのボルドーに醸造技術を学ぶところから始まり、創意工夫を重ね、今や登美の丘のテロワールが存分に表現された、世界に誇れる唯一無二の日本ワインを世に送り出しているサントリー社。

そのワイン造りと向き合う姿勢からは、スコットランドから学んだウイスキーで、世界最高峰の「山崎」を造りだすことに成功した当社のDNAともいえる心意気のようなものが感じられました。

 

海外のものを単純に真似するのではなく、これからも、あくまでも「山梨県の登美の丘ならではのワイン」を体現しながらも、その枠を大いに超えていくのではないか。今後、より一層良いもの、ワイン界の頂点とも言われるボルドーのワインとも一線を画した、素晴らしいワインが誕生するのではないか、というさらなる可能性を感じた一日でした。

 

ワインはまだまだ、海外で造られたものの方が評価されがちではありますが、日本各地のテロワールが豊かに表現され、和食に心地良く寄り添う日本ワインには、私たち日本人、そして日本を身近に感じてくださる世界中のすべての人の心に響くであろう、繊細な魅力があると思います。

 

日本でまごころ込めて造られたワインを、日本の食卓で、和のお料理と合わせて美味しくいただく。そんなしあわせなひと時を、ソムリエ郁子は、これからも皆様にお届けしてまいります。

 

 

ソムリエ郁子いちおしの日本ワイン
日々の食卓に、和柑橘の爽やかな風。

〈サントリー〉登美の丘 甲州 2021(白/750ml) 5,940円 

はっさくや柚子などの和柑橘の香りとほんのりとした苦みがあり、きりりとした酸が引き締めます。辛口。日本の普段の食卓に合わせやすい1本。特にお刺身など生のお魚にも。登美の丘ワイナリー自園産甲州100%使用。良質なテロワールで栽培された甲州ぶどうを使用した素直に美味しい白ワイン。「デキャンター・ワールド・ワイン・アワード 2023」にて最高位「プラチナ賞」を受賞。

和食と赤ワインの、未知なるマリアージュ。

〈サントリー〉登美の丘 赤 2020(赤/750ml) 5,940円 

ベリー系やチェリーなど赤ワインらしい特徴の中に赤しそ、桑の実など日本らしいテロワールがちらりと反映された1本。プチ・ヴェルド主体というスタイルも楽しいです。すき焼きなど、お醬油を使ったお肉料理によく合います。

登美の丘ワイナリーのフラッグシップワイン。

〈サントリー〉登美 赤 2017(赤/750ml) 16,500円

ヴィンテージごとに厳選したブドウだけを使用して造る、〈サントリー〉の日本ワインの最高峰。プチ・ヴェルドとメルロが主体。濃いガーネット色、赤や黒などの濃縮した果実とスパイスの香り、程良い樽香。長い余韻が楽しめるので、特別なシーンにぜひ。郁子は2023年の幕開けで、家族とおせちとのペアリングを楽しみました。特にローストビーフとは最高の相性。

次回は、皆様を「チリ」のワインの旅へとお連れします。どうぞ、お楽しみに!

バックナンバー

ソムリエ郁子とのワインの旅(フランス編)の思い出はこちらから。

ソムリエ郁子とのワインの旅(イタリア編)の思い出はこちらから。

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※写真はイメージを含みます。

 

※20歳未満の飲酒は法律で禁止されています。

※車・バイクでご来店・お帰りの方、20歳未満の方へのアルコール提供は固くお断りします。

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