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松屋銀座の地域共創×青森県弘前市BUNACO 大人の大真面目な冗談が新しい技術とクオリティーを生み出した。 「バウムクエヘン」という製品が起こした数々の奇跡。

松屋銀座だからこそできる地域共創とはどういうものなのか、2023年のバレンタインに登場したBUNACOとのプロダクトを可能にした3名の“アイデアマン”たちの鼎談を通してお伝えします。
出席者(敬称略)

株式会社松屋IPクリエイション課長 柴田亨一郎

グラフィックデザイナー TSDO主宰 佐藤卓

ブナコ株式会社・代表取締役 倉田昌直

商品情報

7階デザインコレクション/松屋オンラインストアにて販売中です。 ※表示価格は全て税込です。

食べられないバウムクエヘン(ティッシュボックス)-Designed by Taku Satoh -
8,800円
写真提供TSDO Photo: Nariko Nakamura
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ダストボックス Two-Shapes(監修:佐藤卓)ナチュラル/ダークブラウン
14,300円
ペンダントランプ(監修:佐藤卓) 
27,500円
※松屋銀座では受注販売
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2020年のクリスマスに始まった松屋銀座の地域共創の試み。松屋銀座のショーウィンドウや吹き抜けスペースでの装飾展開も回を重ね、これまでに各地で活動する作り手の方々と取り組んできました。その後も、他の商業施設への有償貸し出しや松屋銀座での再活用といった新たな視点に立った使用がされています。

また、装飾のみならず地域ブランディングの一環としての商品化というテーマも加わるようになりました。今回はバレンタインプロモーションを契機に、当初より、一時的な話題となる商品に終わらず、長く使われるもの、売れるものを作りたいと考えました。それこそが地方の魅力を商品を通してお伝えできるいちばんの方法だからと考えるからです。そのパートナーとなっていただいたのが、美しい森で知られるブナを実用材としても甦らせた木工品の作り手の<BUNACO>でした。

―そもそもなぜBUNACOさんだったのでしょう

柴田 松屋の地域共創は全館プロモーションにあわせて地域のものづくりをディスプレーしてきました。さらには商品化・地域ブランディングということを実現しています。先だって、佐藤卓さんと黒石市の津軽こけしの作り手さんと「ルビンのこけし」という新しい津軽こけしを商品化し、ふるさと納税返礼品として提供するという形での地域ブランディングに取り組みました。その後もいろいろと青森県を調べていくとBUNACOさんに行き着きました。弘前を代表する企業ということ、ブナ材を巻いて成形していく独自の作り方、西目屋村で使われなくなった小学校の校舎を工場として活用している姿勢、トータルでSDGsということを体現している会社だなと思ったんです。

 

ブナの蓄積量日本一とも言われている環境。西目屋工場では見学や製作体験も行なっている。

 

BUNACOの照明やテーブルウエアを体験できるカフェ。青森県産素材を使ったスイーツが味わえる。

 

佐藤 BUNACOさんのことはもちろん存じ上げてはいましたが、あらためて製品を見て勉強しました。扱いにくいブナ材を特殊な技術で製品化されているとお聞きして、手に取った時の印象は「ものすごくクオリティーが高いな」というものでした。ご一緒できる隙間があるだろうかと不安になるくらいのクオリティーの高さ。…正直、ちょっと緊張しました。

 

―倉田社長は最初にお話しがあったときどのようにお感じになりましたか。

倉田 待ってました、ですよ。個人的なことを言うと、私の社会人のルーツは松屋銀座さんなんです。元々テーブルウエアを扱う問屋の営業担当として入社して1ヶ月目に松屋銀座さんの担当になりました。当時の松屋さんには都内の百貨店で唯一クラフト売場があって、うちのショールームだと言っていたくらいたくさんBUNACOの商品が並んでいた。その頃のものづくりで鍛えられました。

 

―ブランドの名前は、BUNAとCOIL(巻く)からとられたものだそうですが、ブナの木をテープ状に加工してそれを巻いていくという製法は、かなりユニークなものですね。

倉田 青森県の工業試験場が作り方を発明して県が特許をとった製法です。それを民間企業におろして、私の祖父が引き継いだんです。その後、照明やインテリアにも広げたものづくりをするようになりました。

 

テープ状のブナを巻き、湯呑みなどを使って押し出して成形する。
微妙な力加減が求められる。この後、接着剤で固定し、研磨、塗装される。

 

―そして、昨年の10月に佐藤卓さん、柴田さんが、青森県西目屋村の工場に伺い、倉田社長とお会いになった。

柴田 西目屋村の空気感を感じながら、職人さんたちが実際に作っているところをみたほうが新しいアイデアが浮かぶのではと思い、現地に伺う事にしました。

佐藤 お話しをいただいたときから頭は動いちゃうので、実は、伺う前にすでにスケッチもいっぱい描いていました。バレンタインということもあり、ひとつの製品のアイデアとともにウィンドウディスプレーとしても何か新しいことができないかなと。

倉田 元々<BUNACO>というのは木という天然資源を無駄に使わないための技術ですが、卓さんから、それでもロスになる材料というのはあるんですよね、それを使いたいというお話しが最初にありました。木材というのは、特性上決してまっすぐなものではなく、波打っています。でも、作業効率が悪くなるので、普段はまっすぐな部分しか使わない。それを活かしたいと。なので、今回の商品にはどれも、普段だとこれは使えないと分けていた材料を使っています。

 

下がこれまで使われてきたまっすぐなブナ材。
上のものと比べると、その形状の違いがわかる。

 

佐藤 その端材の存在は知らなかったんです。ただ、きれいに作らない製品群ができないかというお話しをしました。ごそごそして隙間が空いているような。それをBUNACOの新しいテクスチャーとして表現できないかと。綺麗じゃない綺麗。それはある意味とても難しい。今まで目指されていたものと真逆の方向性ですから、ちょっと過激なご提案ではありましたけど。今回製品化されたペンダントランプのシェードとダストボックスはそちらの方向性のアイデアが元になっています。

 

佐藤卓さんのスケッチや、既存商品からのアイデア出しなど、最初のミーティングからさまざまな方向性が検討された。

 

 

―それは無理です、と倉田社長はおっしゃられなかったのですか。

佐藤 倉田さんは、それ面白いからやってみますとおっしゃった。そしてすぐに作って送ってくださる。それできないですよ、となるのが普通でしょう。びっくりしました。

倉田 できない裏付けを持っていないので。やったことのないことをできないとは言えないです。だからやる。

佐藤 そもそもはその方向性をメイン製品として考えていました。でもそれがいかに難しいかということがさすがに分かりました。味になるまで表面をでこぼこにするというのは、手間もかかるし、思ったよりでこぼこしない。水につけるなど、いろんな試行錯誤を繰り返すうちに、端材を使えばできるんじゃないかということに自然と移行していった。互いの想定外のアイデアが、どんどん積み重なっていったという印象ですね。

 

アイデアは、すぐに、現場で試された。新たな試みに対して、常に前向きな姿勢がとられる。

 

―「バウムクエヘン」というティッシュボックスのアイデアはどのように生まれたのでしょう。

佐藤 お菓子も作っていらっしゃるという情報はまったく知らなかったんです。最初に松屋の柴田さんからお話しをいただいたときに、BUNACOの表情の説明としてバウムクーヘンみたいな、というワードは出てきた。その後、なんとなくスケッチを描いていたときに、「バウムクエヘン」という駄洒落が浮かんだんです。これは笑えるのかなあ、笑えないのかなあ、こんなことを言ったら怒られるんじゃないかなあ、などと思いながら…。

工場視察の時点ではまだそれを口にする勇気はなかったですが、我慢ができなくなって、少しふざけたアイデアがあるのですが、と申し上げました。食べられるバウムクーヘンと食べられないバウムクエヘンを並べて製品にしたら面白いのではないかと。すると、社長が実はお菓子屋さんもやっていてバウムクーヘン作っているんですよ、と。

 

佐藤卓さんのファーストスケッチ。
「バウムクエヘン」の記述が見られるが、この段階では、ディスプレー容器としての使用が前提とされている。

 

倉田 <BUNACO>はバウムクーヘンみたいだということはずっと言われてきていたことでした。12年前にお菓子を扱う会社の社長もやることになったときに、ものづくりをやってきた私としては何かを作りたくなった。だったら、食べられるバウムクーヘンを作ってしまおうと。ただ、BUNACOには、バウムクーヘンみたいな商品はなかった。なので、食べられないバウムクエヘンとバウムクーヘンを並べたら面白いじゃないですかと言われた時、これは絶対やろうと思いました。

佐藤 それ、できますよってことになったんですよね。「Baumkuchen」のcをeに変更すると「バウムクエヘン」になるという話で盛り上がって。その段階では、バレンタインのイベントと絡めて、チョコレートを並べたり入れたりというディスプレー容器のような形での展開を思い描いていました。

柴田 後日、倉田社長のほうからティッシュボックスはどうでしょう、とご提案いただいたんです。実は、形の面白さだけでなく実用性があるものにしたいと様々な案が出ていたのですが、これといったアイデアが出ていなかったのです。

佐藤 それを聞いた時に、スイーツを置く容器よりも圧倒的にいい、面白いと思ったんです。こういうアイデアのキャッチボールをしながらどんどん進んでいった。

 

―とはいっても、実際の製作では、さまざまな困難があったのでは。

倉田 当初、卓さんからうちが目指してきたことと真逆のことを言われたので、現場の人間たちはショックを受けました。やったことがない、やってみるとなかなか厳しい。その反面、今まではじいていた材料を何か活用できる方法はないかと思ってきたところもあった。そこで「バウムクエヘン」のアイデアを聞いて、これならできる、というスタートになりました。今や現場の人間も、これ波単板(端材)を使ったんですよとさらっと言ってくる。それを聞いて、ああ、やってよかったと思っています。

佐藤 この冗談が本当に形になるとは実は思っていなかったですね。

でもみなさんがとても前向きに対応してくださった。私には、子供の頃からいたずら心があって、仕事でもそれを注入してきたところがあります。そんな私に、倉田社長が遊んでいいですよと言ってくださった。

ディテールについてもいろいろアイデアを出すと、こういうものならできますよという具体的なご提案をどんどん返していただける。

倉田 こういうアイデアをもらったときにいつも思うのが、なんで自分は思いつかないのだろうということ。ものづくりってそういうものなのですが、人から言われないと思いつかない。スキルというものはあるところで止まる。それを打ち砕いてくれるのは内からじゃなくて、外からなんです。

柴田 このプロジェクトはスムーズに進んだように見えますが、実は当初の企画が上手くいかず結果的に違った方向に進むことになりました。地域共創の重要なポイントは「共創」だと思います。つまり共に創るわけなので、誰かだけが頑張るのではなく、全員で頑張らなくてはならない。皆でアイデアを出し、プロジェクトを成功させようという想いが強ければ、結果は自ずとついてくるのではと考えています。

 

―この「バウムクエヘン」の革新的なところを教えてください。

倉田 今までにないスキルで作っています。たとえば、この本物のバウムクーヘンのように見える表面ですが、木を巻いて、ずらして接着剤を塗ったものをもう一度平らに戻している。常識的に考えれば、最初から板を使えばいいじゃないかということになる。でも卓さんは、巻いたものをこうするからいいんだと言ってくる。

 

これまでのBUNACO製品では、テープの重なり部分はあえて残していた。
今回は、滑らかに研磨され、かつ木目は残す、という手法がとられた。

 

佐藤 自分の言っていることがどれくらい難しいことなのか想像はできるのですが、やっぱりやったほうがいいと思うことは言うことにしているんです。できないですっていうメーカーさんはきっといるでしょう。でも、BUNACOさんは言わなかった。

倉田 側面の合わせ目の重なりがなくなっているでしょう。これも卓さんが、試作品をみて、この重ねってだめだよね、平らじゃないとって言うわけです。いちばん言われたくない点だったんですよ。結局解決しましたけどね。完成形のイメージのためにはどうしたらいいか、かなり悩んで作りました。

柴田 その結果、表面は本物のバウムクーヘンのように平らだし、繋ぎ目もないですね。すごいことです。

倉田 もう大騒ぎですよ。ただ、誰もできないとは言わなかった。みんながアイデアを出してくれる。うちの会社のいちばん誇れるところは、諦めないところです。できるまでしつこくやる。20年前にそれまでテーブルウエアを作っていた会社がいきなり照明をやるってなったときに、社員全員にできませんって言われましたけどね。今はそんなこと言う人はひとりもいない。

佐藤 そんな会社はないですね。足を向けて寝られませんね…!

倉田 これは、目には見えない血と汗と涙の結晶です。卓さんが最初に、真面目に冗談やろう、すごいことだからって言ったその言葉が、きっかけになりました。

 

―ペンダントランプのシェードやダストボックスの製作では、どのような“アイデアのキャッチボール”がなされたのでしょう。

 

倉田 このシェードのR曲線をつくるのに、通常の広い幅のテープで作ったら、卓さんが、ここをもっと薄くしようよ、と。そんなこと、こういう小さい製品で今までやったことがない。簡単でもない。正直やりたくない。でもそういうところを壊してくれた。要は、人はものづくりをするときに楽な方にいこうとするんですけど、卓さんは、そっちじゃないよと言ってくれる。それをできたことでスキルアップもしたし、その技術が残っていく。社長としては嬉しい限りです。

 

幅の広いテープで小型の製品を作るためには、今までと違う手間や技術が求められた。

 

佐藤 デザイン自体は今までのBUNACOさんの延長線上だとは思うのですが、ちょっとしたところが重要だと思いました。私は、デザイナーではありますが、すべての業界の素人という立場は崩さないようにしています。知らないから言えることがある。専門家にならないように意識しています。それで今回も失礼なことをたくさん申し上げました。

 

素人だからこそ言えることを大事にしたい、と佐藤卓さん。
そこから妥協のないものづくりが可能になる。

 

柴田 ペンダントランプのシェードは端材を使用したいというアイデアからスタートしました。何度も試作を行いましたが、端材で製作する事は難しく、デザイン的にお客様に販売するまでは至らないという結論になりました。<BUNACO>は元々美しいプロダクトなので、端材を使用する事は本当に難易度が高いですね。

倉田 ダストボックスも上が三角形で下が四角。これも、「今の時代の多様性を受け入れる」ということを卓さんが言われたんです。三角と四角がつながっているこういう形がおもしろいよねっておっしゃるんですが、悩みましたよ。とにかく今回松屋さんに並ぶ商品はどれもさりげないけれど、すごいことが詰まっている。

 

三角で四角、という多様性。
デザインを通した、新たな時代性のへ示唆も込められたものになっている。

 

佐藤 もうひとつ言わせていただきますと、ちゃんと日常使いできるプロダクトになっていなければいけないという気持ちは強かった。冗談から生まれたとしても、一瞬の遊びで終わるような製品を作ってはいけない。長い時間使い続けられるものになっていなければいけない。たとえば、このティッシュボックスの形は四角いケースと違って、あらゆる方向から使用できるので、あらゆる場に馴染む、ホテルでの使用にも適していると思う。

 

「円形だと、どこから見ても正面なんです」という佐藤さんの言葉にはっとさせられる。

 

柴田 私たちにとっても、売らなければいけないというのが大前提としてありますから、こういういいものができたということは非常に大きいんですね。 BUNACOさんではすでに売れているティッシュボックスをお作りになっていますが、こういうコンパクトなものは、今後さらに求められていく形だと思います。

 

新たなプロダクトに込められたさまざまな意味を、地域共創の取り組みを通して感じていただきたい。

 

―バレンタイン期間に販売されるティッシュボックスのパッケージも、佐藤卓さんがデザインされましたね。

倉田 何度もやりとりした結果、特色を印刷した紙をボール紙に貼るという工程が加わっているんですが、その分、バジェットが厳しくなってくる。それをなんとかならないかと業者の方に相談すると、その作業を障がい者の方にお願いしてるとおっしゃるんですね。そういう目に見えないことが重なり合って今回のプロジェクトは完成する、改めて凄いことだと思いました。

柴田 「デザインの松屋」として70年以上にわたってグッドデザインを広めてきたという歴史があります。それに加えて、松屋としては、“気遣い”としてのデザインというコンセプトが根底にあるんです。気持ちいい、使いやすい、日常を豊かにしてくれる、そういうことは時代と共に変わっていく部分でもある。新たな商品を通して、今後も発信し続けていきたい。

また、それが社会貢献とか企業の活性化につながっていくことも嬉しいこと。そういう複合的な意味で、さらなるクオリティーの高さを実現できたらと思っています。

佐藤 BUNACOさんのような会社は貴重です。また何か思いついたら倉田さんに相談させてください。

倉田 どうぞどうぞ。 

柴田 「松屋の地域共創」は銀座(松屋)と地方を繋ぐプラットフォームを構築する事だと考えています。現在、地方で色々な出会いや経験をするたびに過去に実施したことが無いようなプロジェクトも産まれています。今回のBUNACOの成功をベースに他地域の伝統工芸や産業に展開する事も可能ですが、それに留まらず新しい企画を試行錯誤する事で、より良い地域共創に繋がるプロジェクトを考え続けていきたいと思います。

 

 
 
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