ストーリーのある商品を生み出し、
パンを取り巻く食卓のシーンを豊かにしたい

食育指導士
ブレッドストーリー松屋銀座店
三浦良子

1988年に株式会社アンデルセンに入社。青山アンデルセン、広島アンデルセンでの勤務を経て、本社にて商品開発を担当。
2014年、「ブレッドストーリー」が松屋銀座にオープン。2020年に配属。
商品開発のほか、社内外のワークショップの講師も務める。趣味はスイミングやヨガ、ピラティス。

ストーリーのある商品を生み出し、パンを取り巻く食卓のシーンを豊かにしたい

松屋銀座の地下1階のフロアの一角に、ベーカリー「アンデルセン」が手がける「ブレッドストーリー」があります。
今回は、同店で商品の企画開発・販売を担う三浦さんに、食育とパンづくりとの関りや、新たなパンがどう生まれているのかについて伺いました。

目次

「食育指導士」は食べる力を育み、“人を良く育てる”「食育」の専門家

――まずは、「食育指導士」という資格について教えてください。

三浦:食育指導士は、「食と健康」に関する正しい知識を持ち、幅広い世代の方々に食の大切さを伝える、日本食育協会が認定する民間資格です。食品業界のほか、教育や保育の現場で働く方が資格を取ることも多いと聞いています。

――三浦さんが資格を取得したきっかけは、なんだったのでしょうか。

三浦:アンデルセングループは、「食卓に幸せを運ぶ」という創業者の想いのもと、「パンのある、心豊かな暮らし」を提案してきました。その想いに対して、自分に何ができるかを考える中で食育指導士の資格を知り、2016年ごろに取得しました。

昔からものづくりが好きで、入社以来、ベーカリーやレストランのメニュー開発と販売に携わってきました。お客様に豊かな暮らしを提供するためには、パンだけでなくもっと多様な食卓のシーンを知り、食を取り巻く人たちを幸せにすることが必要だと感じていたことも、きっかけの一つです。

ストーリーのある商品を生み出し、パンを取り巻く食卓のシーンを豊かにしたい

――食の資格の中でも、「食育」を選んだ理由はありますか?

三浦:「食育」は漢字で「人を良く育てる」と書きます。食品業界で働く中で、食は人を育てる根源であり、食べることは生きることだと実感してきました。
食育指導士は、栄養や食文化、人間の味覚、グローバルな食の課題など、食育について幅広く学べるところが大きな魅力。資格の取得後は、栄養や食べ合わせなど、多角的な視点からお客様にご提案ができるようになったと感じています。

――資格を活かして、ここ数年は社内外のワークショップの講師もされているそうですね。

三浦:そうなんです。グループ内でも食育指導士の資格所有者は珍しいこともあり、社内では弊社独自の社内資格「ブレッドマスター」の育成を行っているほか、新入社員と一般のお客様に向けてパンや食にまつわるさまざまな講座を担当しています。

――食育指導士の資格が、私生活で役立つこともありますか?

三浦:中学生の子供が2人いるので、家庭での食生活において本当に役立っています。家族で健康的な食習慣を身につけたり、料理や食の楽しさを一緒に体験したり。子供たちも食への関心が高く、食の背景には作る人がいることをちゃんと理解してくれています。
改めて、食は人を育てる根源なんだなと感じますね。個人的にも料理がより楽しくなったり、作った料理をときどき投稿サイトにアップしています。

ストーリーのある商品を生み出し、パンを取り巻く食卓のシーンを豊かにしたい

三浦さんがお子さんたちと作ったピザトースト

 

さまざまなインスピレーションから生まれるパン。
お客様に想いや意図が伝わった瞬間が一番の喜び

――三浦さんが、パンに携わる道に進んだきっかけはなんだったのでしょうか。

三浦:原点とも言えるのが、大学時代に訪れたデンマークでデニッシュのおいしさに感動した経験です。
それ以前にも「アンデルセン」のパンやサンドイッチが好きでお店に通っていて、ある時、創業者がデンマークで出会ったペストリーに感動したことが店の始まりだというエピソードを知り、「これは縁かもしれない」と思って入社しました。

ストーリーのある商品を生み出し、パンを取り巻く食卓のシーンを豊かにしたい

――偶然にも、同じきっかけだったのですね。
三浦さんは今、「ブレッドストーリー」の店舗に並ぶほとんどの商品の企画・開発を手がけていると聞きました。どんなことを意識されていますか?

三浦:アンデルセングループは、広島県でりんごやぶどうを栽培する「アンデルセンファーム」と、開墾から小麦栽培、製粉、製パンまでを体験する施設「アンデルセン芸北100年農場」を運営しています。「ブレッドストーリー」は、その活動で育まれたコンセプト「土づくりから食卓づくりまで。」を体現しているんです。

そのため、これらの農場で育てた食材を掛け合わせて、日本の風土に合ったストーリーのある商品を意識しています。私は日々店頭に立つ中で、お客様からいただく声やニーズをもとに商品の味や食感、形などのイメージを膨らませて、製造チームと試行錯誤しながら商品を開発しているんです。

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――店頭で販売のお仕事をされながら、商品開発をされているのですね。実際に、お客様と接する中で生まれた商品も多いのでしょうか。

三浦:はい、お客様からヒントをいただくことは多くて、例えば6種類のサンドイッチがセットになった定番の「ティーサンド」があります。
これは銀座で歌舞伎座に行かれるお客様から「幕間で食べたいから、膝の上に乗せてもこぼれにくくて飽きが来ないものが欲しい」という声をいただいて生まれたものです。梨園の方々からもご好評いただいています。

――直接聞いた声から生まれた商品が喜ばれると、嬉しいですよね。

三浦:本当にそうで、お客様から商品に対する反応をいただき、想いや意図が伝わったんだな、と感じる瞬間が一番の喜びです。特に、実際に足を運んでいただいたお客様から「あなたにお会いできてよかった」「松屋銀座に来てよかった」という声をいただいたときは、大きなやりがいを感じます。

ストーリーのある商品を生み出し、パンを取り巻く食卓のシーンを豊かにしたい

――お客様からの声以外に、新しいパンを生み出すためのアイデアをどのように得ているのでしょうか。

三浦:実は、建物や景色、レストランでの食事など、パンとは全く別のものからアイデアを得ることが多いです。
通信制大学で空間デザインを学び始めたのですが、一見パンづくりとは関連がないように見えて、実際には違った視点からものごとを見る眼が鍛えられるので、仕事にも役立っていると感じます。
例えば、商品の形の陰影も含めて立体で考えたり、空間デザインを商品陳列の参考にしたり。また、異業種の生徒たちとの交流でも仕事に通じる学びが多く、視野の広がりを感じています。

独自の価値を創造していくためには、パンや食品というジャンルにこだわらず、多方面から考えることが大事だと考えています。

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三浦さんが休日に外食を楽しんだときの一枚。
レストランの食事などからアイデアを得ることも

 

時代や嗜好の変化に合わせて、
驚きと発見がある新しい商品を提案していきたい

――最近、松屋銀座で買ったものはありますか?もしあれば、教えてください。

三浦:松屋銀座の100周年記念サイトで<Sghr スガハラ>のグラス「水-MIZU-」を購入しました。
商品にまつわるストーリーと「未来に続く取り組みをしたい」という社長の菅原さんの想いに共感したんです。良いものづくりの背景には、作り手の想いやストーリーがありますよね。その想いがしっかりと伝わる松屋銀座らしい商品で、とても使いやすくて気に入っています。

――先ほどの、「ブレッドストーリー」のお話にも、なんだか通じるものがありますね。

三浦:本当にそう思います。ブランドの立ち上げから10年以上が経ちましたが、振り返るとお客様の健康志向や国産志向、本物の価値を求める傾向など、食への意識の高まりを感じてきました。こうした時代やお客様の嗜好の変化に伴い、「ブレッドストーリー」の背景にあるストーリーも時間をかけて進化を続けてきました。

ストーリーのある商品を生み出し、パンを取り巻く食卓のシーンを豊かにしたい

――では、最後に今後のお仕事の展望を教えてください。

三浦:今後も時代の変化に合わせてお客様の声に耳を傾け、驚きと発見があるような、新しい価値をどんどん提案していきたいですね。そのためにも視野を広く持ち、自分を常にアップデートしていきたいと思っています。

そうして、「ブレッドストーリー」の“ストーリー”の一部として、より良いものづくりを続けていくことが目標です。
さまざまな経験や体験を通じて、食と人を豊かに育てる手助けができたらとても嬉しいですね。

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