お茶の道で培ったおもてなしの心でお客様をお迎えし、
お茶の魅力をお伝えしたい
裏千家茶道助教授中島珠江
福寿園松屋銀座店に勤務。茶道を嗜む母親の影響で、自身も学生の頃より茶道を嗜む。
日本文化に興味を持ち、國學院大學神道学科で学んだ後、裏千家学園茶道専門学校を卒業。
2013年より福寿園に勤務。並行して、東京都杉並区の熊確庵にて茶道を教授している。
松屋銀座の地下1階にあり、お茶や茶道具、茶器を取り扱う「福寿園」。
その店頭に立つ中島さんは、長年にわたってお茶の道に携わってきた、まさにお茶のプロフェッショナルです。
そんな中島さんに、お茶の世界の魅力やお客様への思いについて伺いました。
学びに終わりのない、奥深い茶道の世界
――中島さんは、福寿園で働きながら茶道を教えていて、裏千家茶道助教授という資格をお持ちだそうですね。どういった資格なのでしょうか。
中島:まず、裏千家とは千利休を祖とする茶道家元のことで、茶道の修練過程には、お稽古の各段階で学ぶことを許可する「許状」と、その修道の度合いによって「資格」があります。例えば、「入門」「小習い(こならい)」「茶箱点(ちゃばこだて)」の許状を取得すると、「初級」の資格が与えられます。
できる「点前(てまえ)」(抹茶を点てる一連の所作)が増えると、申請できる許状と資格が上がっていきます。私も修練を重ねて、裏千家御家元から「助教授」という資格を拝受しました。
――資格は「初級」から始まり、「中級」「上級(助講師)」「講師」「専任講師」と続いて、「助教授」が最上位だと伺いました。
中島:確かに資格としてはそうなのですが、茶道は試験に合格したらそこで終了というものではありません。
「点前」にもいろいろな種類があり、何度も基本に立ち返って繰り返し学ぶので、終わりがないと言いますか、これでゴールという感じではないんです。私もまだまだ道半ばという感覚なので、今回、資格についてお話しする機会をいただいて、実はすごく恐縮しております。
――謙虚でいらっしゃいますね。「助教授」になるまで、茶道を学ばれる中で苦労されたことはありますか?
中島:学びの中で、「点前は覚えなくても、自然と身に付くもの」と言われるのですが、それがすごく難しいです。
お稽古やお茶会、イベントなどお茶を差し上げる機会はさまざまにあり、お客様をお迎えするといろいろなことが起こります。その際、とっさの判断でどう対応するのか。何が起きても慌てずに、いかに平常心でいるかという精神的な部分がとても大切だなと感じます。
――お茶室でのハプニングとは、どのようなことが起きるのでしょうか。
中島:例えば、お点前中に柄杓(ひしゃく)でお湯を汲み上げたら、柄杓の先が取れて窯の中に浮いてしまったことがありました。また、お茶会の主催者である「亭主」が火を起こしていたら、着物の袖が燃えたなんてことも。幸い大事には至りませんでしたし、滅多にあることでもないですが。それから、ハプニングではないですが、やはり足が痺れてどうしようもないこともときにあります。
――そんなこともあるんですね。それに、茶道の先生でも足が痺れることがあると知って安心しました(笑)。
中島:はい。正座も修練のうちです(笑)。さまざまなことがありあますが、それでも私がこうして長年にわたって茶道の道を楽しめているのは、それ以上に魅力を感じているからです。
――どういったところに魅力を感じていますか?
中島:私が通っていた裏千家学園茶道専門学校では、お湯を沸かすために使う炭を切るなど、細部にわたり学び地道に修練したことで、さまざまな出来事に感謝できるようになりました。
また、集中してお茶を点てることで、マインドフルネスのようなリラックス効果も感じますね。
――お茶を点てるという行為には、メンタル面でもいい効果があるのですね。
中島:そうなんです。それに、お茶室では一期一会の出会いがあります。
お茶を通じて知らない方といい空間を共にできることは、とても楽しく清々しいものです。普段の生活の中では、急にカフェで知らない方とお茶をご一緒することはなかなかありません。ですから、お茶室に入って一礼し、お茶を召し上がっていただいて――と、一連の流れを共にすることで、一気にお互いの距離が縮まったと感じます。お茶を点てるという行為は、その方へのおもてなしであり、お茶を召し上がってくださると嬉しく思います。
お茶の道で培った、おもてなしの心でお客様に接客を
――業務についてもお伺いしたいのですが、福寿園の店頭で接客する際、プロとして意識されていることはありますか?
中島:お客様が何を求めていらっしゃるのか、一歩引いたところでそっと寄り添えたらと思っております。
最初からグッと近づくのではなく、お客様が望むタイミングを察してお声がけするようにしています。実際ちょっと商品を見ているだけのお客様に急に話しかけると心が離れてしまいますよね。私としては、お客様に気兼ねなく商品を見ていただきたいので。
――お客様の気持ちを察する心は、なんだか茶道に通ずるものがありそうですね。
中島:そうなんです。以前、福寿園のレストランで働いていた時、上司に「おもてなしの心はお茶の心と一緒だよ」と言われて、ハッとしたことがあります。お茶室でお客様をおもてなしするのも、レストランや売場で接客するのも心は同じなんですよね。
――どんなお客様が多くいらっしゃいますか?
中島:もちろん日本の方も多いですが、銀座という土地柄もあって、外国のお客様も多いのが特徴でしょうか。
外国のお客様は、お目当ての商品をあらかじめホームページで調べてきてくださったり、抹茶を全種類買っていかれたりと、大変熱心でお茶に興味を持った方が多い印象です。お茶を点てる道具の茶筅(ちゃせん)を買われるお客様も多く、先日は柄杓を求めて来店し、ご購入くださった方もいました。宇治抹茶を求めてくる方も多く、宇治茶の魅力が世界に広がっているのを感じます。
――宇治茶が人気なんですね。宇治茶の魅力を教えてください。
中島:宇治茶は、旨みが強いのが特徴です。特に宇治茶のも有名な玉露は、茶葉に覆いを被せて栽培するので、旨みが凝縮しているんです。低い温度のお湯で丁寧に淹れることで、その旨みをより楽しむことができます。職業柄、いろいろなお茶を飲み比べていますが、福寿園のお茶は苦みが少なくて旨みが強く、とっても美味しいですよ。自信をもっておすすめできます。
――やはり産地や栽培方法によって茶葉の味は変わるのでしょうか。
中島:はい。茶葉が育った環境や鮮度、製法などによっても、お茶の色や味は大きく違ってきます。ですので、まずはいろいろな種類を試して、自分好みの茶葉を探していただけたら。常連のお客様の中には、お気に入りの決まった茶葉しか買わない方もいらっしゃるくらいです。店頭では試飲もできますので、遠慮なくお申し付けください。
和装やお茶を通じて、日本の魅力をお伝えしたい
――中島さんご自身も、松屋銀座でお買い物をされることはありますか?
中島:はい、ありますよ。先日は松屋銀座の「銀座のきもの」市で草履を買いました。自分で草履と鼻緒を選ぶと、職人さんが目の前で挿げてくださいました。和装は、色や柄の合わせ方が無限にあるのが楽しいですね。同じ着物でも、合わせる帯や小物を変えることで全然違った印象になります。
――もともと和装はお好きだったのですか?
中島:いえ、以前は着物にはあまり興味がありませんでした。でも、茶道を嗜む中で着るうちに、だんだんと興味が湧いてきました。今日着ているこの着物は制服なのですが、お客様に「日本人はやはり着物が良いですね」とお声がけいただくこともあって、うれしいと同時に身が引き締まる思いです。
もともと、日本の伝統文化やしきたりが好きなので、和装やお茶を通じて日本らしさをお伝えしていけたらと思っています。
――最後に、お客様へのメッセージをお願いします。
中島:お茶の専門店は、格式高く感じて入りづらいという方もいるのですが、ぜひ気軽にお立ち寄りいただきたいと思っています。私は特に抹茶をおすすめしています。抹茶は茶殻も出ず、お茶の葉そのものを召し上がっていただけて、栄養価が高いのが特徴です。簡単な点て方もお伝えしています。ぜひ、もっと抹茶を身近に感じていただけたら嬉しいですね。
お茶について何かわからないことがあれば、いつでも売場でお声がけください。お待ちしております。