松屋銀座の地域共創×青森県黒石市「津軽こけし」

青森県の津軽地方に属する黒石市は、日本の伝統工芸「津軽こけし」の産地として長い歴史を誇っています。東北地方の各地で12もの系統がある伝統こけしの中でも、津軽こけしは様々な型や模様があり、その表現様式は実に多彩。

今回「松屋の地域共創」と青森県黒石市との取り組みにより、津軽こけしの未来へ向けた新しいデザイン「ルビンのこけし」を開発、商品化。この商品はふるさと納税の返礼品にも選定されました。

そこで製作にあたった津軽こけしの名工、阿保六知秀工人・正文工人親子の工房を尋ね、「ルビンのこけし」製作にまつわる秘話や葛藤、その先にある未来について、お話を伺ってきました。

グラフィックデザイナー、佐藤卓さんによる新しい津軽こけし「ルビンのこけし」。
壺のシルエットが向き合った顔に見える「ルビンの壺」にちなんで、「ルビンのこけし」と名付けられました。

青森県の中央に位置する黒石市は、人口約3万人の豊かな自然に囲まれた街。

豊富な温泉源に恵まれ、雪国独特の雨や雪を防ぐ木造アーケードが連なる「中町こみせ通り」は、国の重要伝統的建造群保存地区、「日本の道百選」にも選定されています。

特産品はりんご、地酒、お米、つゆ焼きそばなどがあり年に1度開催される「黒石ねぷた祭り」も有名です。津軽の伝統文化を伝える「津軽伝承工芸館」や「津軽こけし館」の設立、運営にも力を入れ、街を上げて津軽全体の発展のため活動を続けています。

黒石市にある国の重要伝統的建造群保存地区、「中町こみせ通り」

左：1988年に設立された「津軽こけし館」。津軽のみならず、全国のこけしを4,000本も取り扱い垣根を超えて普及し継承したことで、大きな評判を呼びました。過去の名工の作品の展示、こけし工人による製作実演や絵付け体験などもあり、充実した内容の施設になっています。

右：「ルビンのこけし」の製作にあたったこけし名工、阿保六知秀さんの作品も展示・販売されています。

生まれも育ちも黒石市で、昭和41年から約50年以上もの間、津軽の伝統こけしを作り続けている阿保六知秀さん。内閣総理大臣賞を受賞した経験を持つ、津軽こけしには欠かせない重要な工人です。現在も息子の正文さんと、二人で津軽こけしの継承と発展のために日々製作活動に勤しんでいます。

今回の地域共創プロジェクトでは、グラフィックデザイナーの佐藤卓さんデザインによる、新しい発想の未来のこけし「ルビンのこけし」の製作を阿保さん親子に依頼しました。

黒石市の花巻にある、阿保こけしやの工房兼ショップ。
阿保さん親子が製作した「津軽こけし」を購入することができます。

このプロジェクトの説明を聞く前は、いわゆる百貨店での実演販売会のオファーだと思ったという六知秀さん。実際に話を聞くと、地域共創プロジェクトに伴う新しいこけしデザインの製作依頼でした。当初の想定とは異なる内容だったものの、その活動に共感、新しいきっかけになるかも知れないと引き受けられたそうです。

こけしの大切な顔である“目”を絵付する阿保さん。1点1点、集中する作業です。

「津軽こけし」の特徴は1本の木で頭と胴体を作る「造り付け式構造」。
頭はやや小さく、おかっぱの黒い髪型が特徴です。
内閣総理大臣賞を受賞したこけしの名工、阿保さんの作品が並ぶ店内。サイズや姿も様々にあります。

その試みにあたり、了承はしたものの、実際に初めて見たそのデザインは阿保さんにとって斬新なもの。津軽こけしの良さがなくなってしまっているのではないか？という葛藤も同時に芽生えたそうです。

「伝統を重んじつつ、新しいこけしを作るということは自分でも取り組んでいました。8割は伝統を守って、2割だけ新しいチャレンジの遊びの要素を入れるという。それが今回のこけしはそれが逆転された割合になっているなと。往年のファンの皆さんの顔が浮かんできましたし、こけし業界の人がここまでなら変えてもあり、と感じる限度を超えて、まるっきり新しいものを作るんだなと。それはもちろん、初めての経験でした。」

完成したばかりの「ルビンのこけし」たち。ショーウィンドウ用のため、少しサイズも大きめです。
色鮮やかで愛らしい姿に思わず目を奪われてしまいます。

こけしについて真摯にお話しくださる、阿保六知秀さん。

50年以上、真摯に伝統的な津軽こけしに向き合ってきた阿保さんがそう感じるのも不思議ではありません。プロジェクトの意義は理解し、必要なことなのかも知れないと思案を続ける中、新しい「ルビンのこけし」と向き合っていくうちに、少しづつ心境の変化が訪れてきたと言います。

工房でこけし製作をする六知秀さんと正文さん。

左上：最初の工程は、木材を荒削りして乾燥させていきます。
右上：木材を削って、こけしのフォルムを形成していく手作業。
左下：削り出した木材の屑。

「津軽のこけしは、今までも何回か転機がありました。こけしが広く一般的なものとして各家庭に普及していた時代を経て、昭和から平成にかけて伝統工芸を存続させようとたくさん買ってくれた人。10年ほど前にはこけし女子というブームのようなものもありました。

これからの新しい伝統こけしは、どこをどう変えれば新しくなるのか？紫外線に弱く、色が退化してしまう塗料をアクリルのものに変更するなど、試行錯誤は続けていたんです。

こけしに限らず、伝統は次に伝えてくれる人がいなければ、衰退していってしまう。今また、こけしの伝統をどう継承し続けていくか、という局面を迎えている中、もしかしたらこの地域共創プロジェクトの「ルビンのこけし」は、50年、100年過ぎた時に評価される、次の時代にマッチする未来のこけしなのかもしれない。これはいい企画に応えられそうだな、そう思えるようになりました。」

伝統工芸の中には現代に見合う糸口を見出せないまま、廃業になってしまうという厳しい現実もある。伝統を重んじて継承していく誇りと、時代に則した進化の必要性のどちらも感じているからこそ。六知秀さんの深い思慮が感じられる言葉のひとつひとつが胸に刺さります。

デザインの力で伝統工芸に新たな視点をもたらし、継承と発展へ繋げていくという地域共創の取り組み。「ルビンのこけし」が本当に未来のこけしとして繋がっていくかどうか？それは手にとってくださる、お客様のご反応次第なのかも知れません。

左から「ルビンのこけし」をデザインしたグラフィックデザイナー、佐藤卓さんと阿保さん親子、地域共創プロジェクトリーダーの柴田と記念撮影。背景には色鮮やかなこけしたちが彩っています。

一方、デザイナーの佐藤卓さんにもお話を伺うと、伝統工芸である「津軽こけし」の新しいデザインを生み出すことにあたり、作り続けて来た工人や歴史に敬意を払い、本質的な佇まいや良さに向き合った上で、「デザイン」するということを意識して取り組まれたそうです。

津軽こけしを数体並べてそのじっとイメージが降りてくるのを待っていたある時、こけしとこけしの間にある「隙間」にふと目がいきます。壺の形が見方によって人の顔と顔が向き合っているルビンの壺のように見えることから、「ルビンのこけし」と名付けたそうです。

手作業で丹念に作られたこけしの一体一体は姿や形もそれぞれ。でも、それは人間と同じでみんな個性がある。子供や大人、性別を超えたこれからの時代を象徴する、そんな多様性を持つこけしになりました。

この日は正文さんが「ルビンのこけし」を1点1点丁寧に絵付け作業していました。

六知秀さんと正文さん親子。

こけしは本来旅先の思い出として買われていくもの。今はまだ状況が不安定なこともあるので、旅行はできなくてもこけしを取り寄せ、家に飾ることで旅に出た気分になってもらえれば嬉しい。そうはにかみながらお話くださった優しい表情が印象に残るインタビューでした。

この「ルビンのこけし」は、黒石市のふるさと納税の返礼品にも選定。伝統的な津軽こけしとともに、新しい未来のこけしが多くの人に届くことを願ってやみません。

■「ルビンのこけし」

グラフィックデザイナー、佐藤卓さんがデザインした未来の「津軽こけし」。
佐藤氏が向けた眼差しは、こけしとこけしの間にある隙間。
壺のシルエットが向き合った顔に見える「ルビンの壺」のようなことから、「ルビンのこけし」と名付けられました。

津軽こけしの名工、内閣総理大臣賞を受賞した阿保六知秀工人・正文工人親子により丹精を込めて作られた凹凸のペアのこけしは、1体1体、手作業だからこその味わいがあります。

松屋銀座の地域共創×青森県黒石市の取り組みにより開発された「ルビンのこけし」

ルビンのこけし（カラフル／ペア、カラフル／ファミリー）　各税込6,600円　※専用箱入り
◆7階おりふし Gift Lounge
◆松屋オンラインストア
※一時欠品中です。再入荷を予定しております。

松屋銀座のショーウィンドウ。行き交う多くの人々が、興味深そうにじっくりと眺めてくださっています。

装飾展開【終了】
期間：10月5日（水）－18日（火）
場所：1階正面ショーウィンドウ、1階正面口商品展示スペース、3・4・5階商品展示スペース、地下ショーウィンドウ

青森県黒石市のふるさと納税の返礼品になった「ルビンのこけし」。
黒石市への「関係人口」「交流人口」を創出し、黒石市の地域ブランディングに繋げていくことを目標としています。

・ルビンのこけし（カラフル／ペア）

・ルビンのこけし（ブラック／ファミリー）

・ルビンのこけし（カラフル／ファミリー）

・ルビンのこけし（ブラック／ペア）