– 松屋の地域共創 – 井波彫刻が吹き込む、木工芸術の新しいかたち

7月20日（水）から8月9日（火）までの期間、江戸時代から伝わる富山県の伝統工芸、井波彫刻の彫刻師・前川大地さんと「松屋の地域共創」のコラボレーションによる、シャンデリアのインスタレーションをご紹介いたします。

以前は寺社や日本家屋の欄間などに用いられてきた井波彫刻も、時代の移り変わりにより様々な用途への変化が求められています。現在、そしてこれからの未来へ向かうために「木製のシャンデリア」という斬新な発想で、井波彫刻に新しい可能性をもたらす前川さん。松屋との協働により、オリジナル作品を制作していただきました。

井波彫刻の新たな方向性を示す、前川さんによる木製シャンデリアが灯された1階正面のショーウィンドウ。
一際大きな照明は元々の前川さんのオリジナル。この作品がきっかけとなり、今回のコラボレーションが実現しました。
周囲を取り囲むように灯されているのは、繊細な鶴と松があしらわれた「松屋の地域共創」と前川さんによるオリジナルの木製シャンデリアたちです。

井波彫刻の歴史はとても古く、その始まりは250年ほど前の江戸時代まで遡ります。
本願寺５代綽如上人によって1390年に建立された「井波別院瑞泉寺」は火事により数度の消失と再建を繰り返していましたが、江戸時代の中期に本堂の再建、彫刻のために京都から御用彫刻師の前川三四郎が派遣されました。その際に地元大工の番匠屋九代七左衛門ら数名が参加し彫刻の技法を本格的に習ったことから、井波彫刻と呼ばれる木彫りの技術と文化が確立していきました。

井波別院瑞泉寺には、いくつもの井波彫刻が施されている場所がある。

この井波の地で、「井波木彫工芸館」を営む井波彫刻師の前川さん。
美大を卒業後、県外で社会人としての研鑽を積み、30歳の頃に家業を継ぐために修行を始めたといいます。

「井波で育ち、父親が彫刻師である自分にとって地元へ戻って後を継ぐのは自然な流れでした。地元が好きでしたし、特に嫌だと思うこともなく。それに井波という土地は木彫りを中心に、木に関係する要素がほぼ全て揃っているんです。名木をはじめとした材木店、糸鋸ミシンと呼ばれる木材を切る加工所、塗り師、さしものと呼ばれる「ほぞ」を使った技法に刃物や道具・・・木に関する職人たちが本当に多く集まっています。たくさん刺激も貰えますし、魅力がある土地だなと思っています。」

数多くの井波彫刻の工房が軒を連ねる、瑞泉寺門前の八日町通り

実際に工房を見学させていただくと、ダイナミックで精巧な木彫りの作品の数々に、感嘆し圧倒されるばかり。丁寧に手入れされた、たくさんの道具類にも目が留まります。

「木彫りのための道具、「のみ」は自分たちで研ぐのですが、まず上手く研げるようになるまでで2,3年はかかりますね。一人前の作品を作れるようになるには10年かかります。欄間を作れるようになると、ようやく一人前になったと。」

井波彫刻の彫刻師たちは何百本もの「のみ」を使い分けて木彫りします。
その総数は500本以上。平のみだけでも40～50本もの種類があるそうです。

以前は住居の「欄間」として需要があった井波彫刻も、生活様式の移り変わりに伴い、一般住宅での需要が減少。前川さんはそういった状況を変えたいとシャンデリアの照明を制作することになったと言います。

元々は寺社仏閣の彫刻から、一般住宅の欄間として広まった井波彫刻。
鶴や松、登り龍など数々の縁起物が彫られ、禍いを避けて縁をもたらす、守り神のような意味も込められていました。

「かつては寺社仏閣から住居の欄間や装飾品まで、井波彫刻は人々の暮らしにとって身近なものでした。年々、生活空間や様式が変わっていく中で需要そのものがなくなってきてしまった。井波彫刻の将来を考えたとき、何か別の形で活かせないか？とその間口を模索していたんです。現代の住居の中でもハイエンドではありますが、シャンデリアなら井波の装飾が活かせると可能性を感じて。それから、色々と作るようになりました。」

「松屋の地域共創」プロジェクトチームのリーダー、柴田さんが前川さんに注目したきっかけも、井波彫刻をシャンデリアや照明の作品として再アプローチする発想の新しさからだったと振り返ります。「井波彫刻をシャンデリアという新たな形で発信する、そのアイデアや挑戦する姿勢に惹かれました。こんなにも美しい作品を、もっと世に広めなくてはと。ショーウィンドウに映える確かな存在感もあり、展示だけではなく、最終的には商品化の可能性もあると感じました。」

工房を訪れた「松屋の地域共創」プロジェクトリーダーの柴田さんと前川さん。

松屋銀座での展示が終わった後も、作られた装飾を他企業の商業施設や店舗に貸与し、また新たな地域共創の可能性を拡げる松屋のプロジェクト。

前川さんご自身も、井波彫刻を伝える手法として店舗のディスプレイ等にその可能性があるのでは？と感じていたことから、今回の取り組みは絶好の機会だったと共に、その後さらに各地域で人の目に触れる機会が得られるという点にも魅力を感じたそうです。

松屋からの依頼を受け、イメージを図案に起こし試作していく中で、双方がこだわり抜いたのは松屋の伝統でもある、松と鶴のモチーフ。現代のデザインにさりげなく組み込めるように

モダンで洗練されたモチーフがあしらわれています。

依頼いただくお客様とコミュニケーションを図り、一緒に作品を作り上げる、そんなところにも醍醐味を感じると話してくれた前川さん。
一刀一刀、丹念な作業が進んでいきます。

松屋の創業時から伝わる、松と鶴のモチーフがあしらわれたシャンデリア。

「特にはじめて作る作品の図案を書いている段階では、これで大丈夫かな？と毎回思いますね。作っていく過程の5割くらいで、ようやく“見えて”くるものがあります。

完成したのち、俯瞰的に鑑賞してイメージと合致していることを確認できたときの手応えは

格別です。今回の松屋さんにオファーいただいたシャンデリアは1度作っていた構造だったこともあり、比較的早い段階から完成形のイメージが浮かびました。」

まだ試作段階のシャンデリア。
和洋折衷を思わせる佇まいにうっとりしてしまいます。

前川さんに今後の展望をお伺いしたところ、地域の彫刻師や関連する職人さん達と連携をとりつつ、井波彫刻全体が新しい可能性を広げていけるような活動にもっと力を入れていきたいとお話ししてくださいました。

今後、松屋ではショーウィンドウで展示したデザインをそのまま商品化するという構想があるそうです。お客様に見ていただき、素敵だなと感じたデザインや感覚を商品として持って帰ることができる。展示、商品化、他企業への貸与により他の場所でも発信ができる・・・。そんな拡がりが増えることによって、松屋の地域共創、SDGsの取り組みはさらに進化し、たくさんの地域のモノ作りに光をあてることへと繋がっていきます。

彫刻師・前川大地さん

富山県生まれ。2005年から前川正治氏に師事したのち、彫刻師として数々の作品を制作する傍ら「井波木彫工芸館」を営む。井波美術館での個展や福光美術館にてグループ展を開催するなど、現在の井波彫刻を代表する担い手の1人として活躍中。井波の若手彫刻師たちと結成した「井波彫刻青年部」では、井波の彫刻文化を次世代へと継承すべく、シャンデリアや木製照明など、現代的な作品制作や広報活動にも力を入れ、日々活動を行っている。

プロモーション「松屋の逸品」7月27日（水）から8月16日（火）まで各階で開催

松屋銀座には衣・食・住、それぞれの逸品が集まっています。その中で自信をもっておすすめするアイテムを各階でご紹介。1階正面ショーウィンドウでは、前川さんによる木製シャンデリアが『松屋の逸品』を温かく照らしだします。