サステナブルな時代に、「繋がる」風呂敷。
古来より続く、風呂敷の文化
古くは奈良時代、蒸し風呂に入る時の敷物や衣装を包む用途として使われていた布は、いつしか風呂敷と呼ばれるようになり、やがて日常の手荷物や、慶弔、祝い事の贈りものを包む布として日本の暮らしの必需品になりました。時代の変化とともにその存在は影を潜めたかに思えますが、手軽に洗って使うことができ、コンパクトに折り畳める風呂敷はまさに今、意識が高まりつつあるSDGs、サステナブルを表すもの。再び注目すべきアイテムではないでしょうか。
馬場染工場を訪ねて
風呂敷と言えば京都府が有名な産地。今回お邪魔した馬場染工場(ばんばせんこうじょう)は、大正2年に創業された型染め工場。大正時代から変わらない、ノスタルジックな木造の合掌作りの建造物の中で、職人が今も昔と変わらない製法でクオリティーの高いものづくりを続けています。
京都の中心部からほど近い、閑静な場所に佇む工房を訪ねると、馬場染工場四代目の馬場憲生さんが笑顔で出迎えてくださいました。


90年代初頭に先代のお父様から事業を継いだ憲生さん。伝統ある風呂敷の制作、その技法や工程を守りつつ、時代の潮流をいち早く捉え、時に革新的なアイデアや機会を生み出し、今日の風呂敷文化を守ってきました。風呂敷にまつわる工程のひとつひとつと、今回の松屋とのコラボレーションについてお話を伺います。

風呂敷は幾つもの工程を経て、完成されるもの。まずは染料を決めるところから始まります。 松屋が依頼した、SDGsを表現する風呂敷の17色を元に染料を調合。生地の上で狙い通りの色が発色されるよう、グラム単位で材料を計量して、混ぜ合わせて調合していきます。その調合は化学式のようなものだと言う馬場さん。材料によっては、鍋で火にかけて混ぜ合わせたりする事もあるそうです。染料は、生地と染料をつなぐために米ぬかや海藻素材で出来た“染めのり”に混ぜ合わせることで完成されます。



次に、傾斜した作業台に生地を貼る、地ばりと呼ばれる作業に入ります。ここで一番大事なのは“地の目”。生地の織られている組織が歪まないよう、均等に確認しながら、ぴったりと皺が寄らないよう丁寧に貼っていきます。一見地味な作業に思えますが、仕上がりのクオリティーを左右するとても重要な作業なのだそうです。



シルクスクリーンの版を生地の上に重ね、セットしたのち掻きベラを使って染料を生地に置いていきます。ムラや染められていない場所を作らないよう、職人が手を止めることなく一気に染め上げていきます。 濃紺からブルー、そして明るいレッドへと、SDGsのカラーを一反ごとに染めていきます。

絵柄のある表面を染めた後に、程よく乾燥した頃合いを見計らって歪まぬように生地を巻き取っていきます。


裏面を染め上げて生地の染色が全て完了したのち、発色を良くするために生地を蒸す作業が入ります。蒸すことによって、生地と染料が定着するのだそうです。微細な感覚と経験値を基に、その日の天候や温度、湿度、生地の種類によって蒸し加減が調整されます。


そして蒸し上がった生地には、余分な染めのりや不純物が残っているため、大きな水槽の中で、丁寧に手洗いして落としていきます。洗いすぎても、洗い足りなくてもだめ。美しい仕上がりのために、職人さんの長年の勘と経験が頼りとなる非常に重要な工程です。
水洗いした生地が乾いたら、最後の仕上げです。生地に蒸気をあてながら、一反一反、丁寧に広げて元々の生地の幅になるように調整していきます。
その後、風呂敷の上下の端や角が綺麗に出るように縫製し、風呂敷は完成となります。
ひとつのデザインから、さまざまな工程と職人技による手仕事を経て、出来上がった風呂敷の完成度は さすがのクオリティー。1枚の風呂敷が持つ、品格と力強さ、そして発色の鮮やかさに見惚れてしまうほどです。

松屋の地域共創
「松屋の地域共創」リーダーの柴田亨一郎さんによると、このプロジェクトは地方にある伝統の文化、伝統工芸など、まだまだ知られていない良いものを、松屋を介在して発信することで、多くのあらたな機会が得られるのではないかと考えたことから始まったと言います。「松屋でインスタレーションを行うことで、訪れてくださるお客様、そして銀座の街を行き交う人々に地方のものづくりの素晴らしさを認識していただく良い機会にもなりますし、このSDGsの時代に、毎回制作する毎に捨てられてしまうインスタレーションについても、ずっと課題を感じていたんです。展示が終わったインスタレーションを再活用し、他のプロモーションで使用したり、商業施設や文化施設に再貸与することで、本質的なところから「巡回する仕組み」が作れるのではないかと考えました」。
また、馬場染工場は職人技の技術を持ちつつも、外資ブランドやデザイナーと多数のコラボレーションをするなど、革新的かつ柔軟さがある企業。そんな点にも魅力を感じてのオファーだったそうです。 馬場さんも、松屋のプロジェクトを知りお話をしていく中で、これまでの百貨店にはないフットワークの軽さ、新しい取り組みと進化への気概に共感し、同じ未来図をもつ者同士の親近感が湧いたと話してくれました。

元々は、丹後ちりめんを使った上質な風呂敷を生産することが主だったと言う馬場染工場。 代が変わり、時代の変化の中でどう生き残り、発展していくかということを常々考えていくなか、 憲生さんが取り組んだことはいくつもありました。請け負いの加工業だけではなく、自社の技術や商品を知ってもらうために、オリジナル風呂敷ブランドを展開するなどの新たな挑戦。そして制作の技術面では、古くから用いられてきた丹後ちりめんや麻、綿だけではなく、洋服の布地となるシルクなど、技術的に染められるものはなんでも試し、その品質は今や世界に誇れるほど確かなものになりました。評判を聞きつけた世界的なブランドや、感度の高いものづくりをしているデザイナーなどが、馬場染工場にその制作やコラボレーションを依頼し、今日に至ります。
現在は京都を訪れた観光客の皆さんに手に取りやすく、風呂敷を知っていただけるよう、買い求めやすい安価なものから、様々なお店や個人の方が少量でも気軽にオーダーし制作できるオリジナル製品の受注も。そして、ブランドとのコラボレーションや海外からのオーダーにも対応と、1枚の風呂敷から拡がり、繋がる多角的な展開を続けています。

染めを手がけた馬場 憲生氏、松屋の地域共創リーダーの柴田亨一郎
「松屋の地域共創」が示す、SDGsと風呂敷のこれから。鮮やかなインスタレーションが 4月27日(水)から、5月10日(火)までの期間※、店内やショーウインドウで皆様をお待ちしております。
※1階スペース・オブ・ギンザの装飾は、5月31日(火)まで。

■〈馬場染工場〉松屋銀座オリジナル風呂敷は松屋オンラインストアでも販売中。好評につき、終了いたしました。
〈馬場染工場〉松屋銀座オリジナル風呂敷
税込2,200円
◆7階デザインコレクション、地下1階和・洋酒(5月10日(火)まで)
1階スペース・オブ・ギンザ(5月3日(祝・火)-10日(火))
◆松屋オンラインストア
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