知っておきたい、日本全国のものづくり “日本再発見”
vol.2[岩手県]
さまざまなつくり手の個性が光る 浄法寺うるし専門の漆器製作工房
滴生舎
(てきせいしゃ)

左:バイヤー蓑輪さん、右:滴生舎馬場さん
日本で使われるうるしは97%が中国産で、国産は残りのわずか3%。とても貴重な国産のうるしですが、その7割を岩手県二戸市の浄法寺地域が支えています。日光東照宮や中尊寺といった国宝など文化財の修復にも使われ、生産量がずいぶんと減った現在でも大変貴重な存在。必要量を確保するため植林に力を入れたり、品質保持のため認証制度に取り組んだりと、文化をつなぐ努力がなされています。
今回は、そんな浄法寺うるしにこだわって漆器製作や販売、ワークショップなどを行っている滴生舎・塗師の馬場さんと、松屋銀座7Fのデザインコレクション担当バイヤーの蓑輪さんが、漆器という世界のものづくりやその未来についてお話します。

蓑輪さん
「私が浄法寺うるしと向き合ったのは、デザインコレクションに着任したときのことです。それ以前に手仕事直売場などでも見かけていましたが、着任を機にうるしのことを学び、岩手県の浄法寺にも2〜3度伺わせていただきました」
馬場さん
「松屋さんで商品をご覧になったお客様が、この滴生舎にいらっしゃったこともあるんですよ。“商品がどうつくられているのか、どんな歴史があるのか”ということにまで興味をもっていただけるので、私たちもとてもうれしいのです。滴生舎では約10名のつくり手さんの作品を扱っていますが、みなさん浄法寺うるしを大切に想う気持ちを同じくしています。お互いに情報交換をしながら“みんなで盛り上げていこう”と手を取り合っています」

蓑輪さん
「現地に足を運んで一番印象的だったのは、塗り師の方がみなさんお若くて、女性が多く活躍されていたことです。伝統工芸というとベテランの作家さんが寡黙に作品づくりをされているイメージでしたので……。自分と同年代の方々がこういった日本の大切な伝統をつないでいらっしゃることに、これまでの印象を覆す衝撃がありました」
馬場さん
「私たちの環境は恵まれていると思います。実は過去に一度、浄法寺塗りは姿を消したことがありました。もう40年以上前になりますが、岩舘隆さんという方が復興させて今があるのです。お父様がうるし掻き職人だったこともあり、“大切な地域の産業を外へ発信しよう”と立ち上がってくださったそう。このときに“これからの時代に求められる漆器の姿”を再構築されたため、それまでのイメージとは少し違う、自由な雰囲気が生まれたのだと思います」

蓑輪さん
「それに、行政との距離感が近いな、とも感じました。地域の産業を岩手県として守っていこうという取り組みがいろいろとありますよね。これは都会では、とくに東京だとなかなか感じることが少ない、人と人とのつながりの部分だと思います」
馬場さん
「行政にたずさわる方々も“時代に合う漆器の姿”という考え方に共感いただいているからだと思います。いわゆる“伝統だからいいもの”“ずっと続けているから、続けなくちゃいけないもの”という概念ではなく、たずさわる人々が本当に大切だと思うことを素直につないでいける。それが浄法寺うるしのよさだと思います」

蓑輪さん
「滴生舎に並ぶ漆器はよく見る漆器と違い、磨きの工程を行いませんよね。その理由は、生活のなかで使う人と一緒に育っていって欲しいという想いから。使って、洗ったらふきんで拭く。その拭きが磨き代わりになり、お客様自身が時間をかけてゆっくりと艶を出していく。そんな“ものと共にある生活”という考え方が素敵ですよね」
馬場さん
「“今の食卓で使いたいものとは”という価値観で、岩舘さんをはじめとする方々が漆器づくりの土壌を築いてくれた結果です。 “それは浄法寺うるしっぽくない”“伝統と違う”などといったしがらみが、ここにはありません。それぞれがここの伝統のことをちゃんと理解し、魅力を発信していきたいという想いをもっているからこそ、お客様に伝えたい想いを商品に投影できているのかな、と感じています。漆器は“特別な存在”ではなく“毎日使えるもの”として、私たちは商品を生み出していますし、そのことをお客様に伝えていきたいですね」

蓑輪さん
「だから、若い方も職人という職業を目指しやすいんですね。歴史ある伝統工芸に感じがちなピリッとした隔たりがなく、親しみやすい雰囲気がありました。職人さんには東京出身の方もいらっしゃいましたね」
馬場さん
「私自身も新潟出身なんですよ。浄法寺うるしが素敵だな、という想いをもつ人を別け隔てなく受け入れてくれるところも魅力のひとつですね。いまはこの大切な伝統や環境を続けていくため、 “うるし掻き職人が生業としてやっていくには”という点にも関わっていく必要を感じます。それは、漆器のつくり手・売り手である私たちにとっても重要な課題ですから」

蓑輪さん
「松屋のお客様も、単純な“もの”を求めているのではなく、そういったストーリーや想いを探していらっしゃる気がします。馬場さんから伺うお話を松屋から発信し、さまざまな職人さんの活動や想いを届けていきたいですね。松屋では地方とのつながりを大切にしていますが、それはやはりつくり手の方々とお客様に対する誠意だと思うのです」
馬場さん
「こういった考えを伝えることで、お客様が漆器を使うきっかけとなるような存在になりたいですね。それには“ものがどこから生まれてどこへ行くのか”や、“食べるということ”など、根本的なことから考えていかなくてはなりません」
蓑輪さん
「そうですね。私たちもその目線をしっかりもたないといけないと思います。生活を見直す、という意識を時代も求めていますし。また、私も浄法寺うるしの器で毎日食事をしていますが、陶器などと扱いはほとんど変わりませんよね。漆器は特別で、もっと手間のかかるものかと思っていたので意外でした」
馬場さん
「どんなジャンルのお料理にもしっくりきますよね。日常に取り入れやすいアイテムをそろえているので、ぜひみなさんにお試しいただきたいです。私たちがこの浄法寺うるしに関われているのは、一生懸命に引っ張ってきてくださった方たちのおかげ。だから私たちも、浄法寺うるしを使った素晴らしい商品たちを、滴生舎という枠にとどまらず全国へ伝えていきたい。松屋さんは、そんな気持ちを汲んでくださるパートナーとして信頼しています」

一方的に地方を応援するのではなく、相互関係を築くことがいまの時代に求められていること。お取り引きのある企業はもちろん、その向こう側のつくり手や職人など、すみずみまで関わりを持つ百貨店でありたい。お互いに手を取り、協力し合うことを目指す松屋銀座と国産うるしのお話でした。

角椀小(溜・朱) 11,000円
7階デザインコレクション
※表示価格はすべて税込です。