知っておきたい、日本全国のものづくり “日本再発見”
松屋銀座のショーウィンドウをはじめとした店内を飾り
サスティナブルな日本の伝統工芸へ
土佐組子
(とさくみこ)

“組子”は、細い木片を組み合わせて幾何学的な紋様を生み出す、木工の伝統技法のことです。日本家屋の障子や欄間などの建具に用いられていましたが、現在では需要が激減。そんな組子界の状況を変えようと土佐組子を立ち上げたのが岩本さんです。伝統美と革新美を融合せた岩本さんの作品に松屋も注目し、バレンタインシーズンにショーウィンドウを組子で飾っていただきました。
「プロモーション動画をご覧になった全国の方から、たくさんの反響をいただきました。洋のチョコレートと和の組子、この一見ミスマッチなところがお互いを引き立て合えたようで、私自身も気に入っています。特に“手加工で”というところに“すごいね!”というお声をいただきました」(岩本さん、以下同)
2021年2月にお目見えした土佐組子ですが……実は、物語はもっと前から始まっていたのです。

2020年夏、浴衣とともに美しく飾られる予定だった、幻となってしまったオブジェがこちら。当初の計画では四角形のユニットをいくつかそろえ、それらを組み合わせることでデザインを変えていく、というものでした。プロジェクトがスタートする直前のコロナ禍。1回目の緊急事態宣言が発令され、プロジェクトは中断。そして年が変わり、バレンタインの時季にようやく実現となりました。

今回のショーウィンドウは、“日本再発見”というテーマから扉が開くようなイメージでつくられました。貝が開いていくような姿を、組子で見事に表現しています。パーツ同士が美しく接合しているように見える部分、実は接着でも、金具で留めているのでもありません。マグネットが仕込んであるのです。
「さまざまに組み合わせられて、形を変えられるようなものにしたい、というリクエストをいただいたとき、ワイヤーでつなぐ案などいろいろと考えました。そんななかで以前、木製のタイルにマグネットを仕込んだことを思い出したのです。実例があったわけではないので不安はありましたが、やってみるとこれが実にうまくいきました」

地下のショーウィンドウでは、銀座はちみつを使った商品をプロモーション中です。こちらでも新しい姿に変わった土佐組子を披露しています。バレンタインの際の組子のパーツを見て、形がハニカム構造だと気がついた松屋のスタッフの意見から実現しました。

「組子は細ければ細いほど、繊細であればあるほど価値があるのだと考えていましたが、ショーウィンドウをご覧になったお客様の反応から、それはつくり手側の思い込みだったと実感しました。遠くからでも組子だと分かるようなスケールの大きなものでも、美しければ反響をいただける。それに気づけたのも、松屋さんとご一緒できたからこその財産です。マグネットを使うというアイデアも。難しいお題をいただくたびに自分の引き出しが増えるので、次にどんな難題をいただけるかと今からわくわくしていますよ(笑)」

なにか新しいものが生まれるとき。それは人や、想いや、考えが複雑に重なったとき。
人と人との縁も同じです。
土佐組子とのご縁は、松屋も参加する経済同友会地方創生ワーキンググループの活動から始まりました。そして、直接の仲人役となったのは、当時高知県産業振興推進部部長だった井上さん(現:高知県副知事)。井上さんからは、「高知は森林面積日本一。木材を見事に活用した土佐組子は、デザインもさることながら若手職人の志も高く、以前から素晴らしいと思っていたので紹介をさせていただきました」というお言葉をいただきました。
「松屋さんで土佐組子を取り上げていただいたおかげで、“高知県に移住して、組子を手掛けたい”“伝統工芸に携わりたい”という人が、少しずつ増えている感覚があります。銀座からの発信が、私たちの活動が、地方創生の興味の入り口になれているのかもしれない。そう考えると、うれしい限りですね。仲間内でも仕事を共有したり、チームを作ったり、お互いを引き上げるような関係を築けていて、これからの未来が楽しみになります」

日本全国に根づいている素晴らしいこと・ものを、松屋銀座から。これからも、地方とともに歩んでいきたいと考えます。