同じ想いは、同じステージで話せてこそ。
上っ面じゃない関係から生まれる最高のかたち
『アンビグラム』の伊沢さん、『アンフィニ』の金井さんはともに渡仏経験があり、それぞれご自身のパティスリーを経営する話題のパティシエ。そんなおふたりのお菓子と人柄に惚れ込んだのが、松屋銀座バイヤーの牧野さん。出店交渉からはじまったその関係性はどんどんと深まっていきました。
牧野さん
「伊沢さんとは出会ってもう3年になりますね。鎌倉のお店に伺ってお話をさせていただくことになったのが、ちょうど僕の担当が和菓子から洋菓子へ変わるタイミングで。いろいろリサーチを重ねるうち、“伊沢さんにすぐお声がけしなくては!”と意気込んでいたのを覚えています」
伊沢さん
「覚えていますよ。初対面で“明日から洋菓子バイヤーになります”っておっしゃっていました。僕は昔っから大の和菓子好き(注:オタクレベルです)で、“やった! 和菓子の話ができる人、見つけた!!”っていう印象が強かったんです(笑)」
牧野さん
「金井さんと出店に向けて本格的にお話させていただいたのは約1年前。まだ工事中だった九品仏のお店を見せていただいたとき、スタッフさんの控室の広さに驚きました。パティシエとしての質だけでなく、人としても尊敬できる面が僕のなかで色濃くなった瞬間で。“人のことをこんなに想えるなんて・・・、この人と一緒に仕事がしたい!”と、感動しました」
金井さん
「独立する前のお店で1度ご挨拶をさせていただきましたよね。そのときはバイヤーさんのなかのひとりという目線でしたが、お話をするたびに自分のいろんなところを研究してくれているのが伝わってきて“この人は、安心できるな”って感じるように。実は・・・バイヤーさんって、僕にとってはちょっと怖い存在なんですよ」
伊沢さん
「分かる、そうだよね(笑)。僕たちを通り越して“商品”を見てお話をされるイメージ。どこか壁を感じるっていうか、寂しいというか。だから、いつも構えちゃう自分がいるなぁ、と。それが、牧野さんは積極的に懐を開いてくれたところがほかと違っていて。“僕”に興味をもってくれたところが分かって話しやすかった」
金井さん
「百貨店のバイヤーさんは、すごく上のほうにいるイメージがあるんです。僕たちみたいな“いちパティシエ”が何をどう表現したって、すべてを見透かされているような(笑)。でも、牧野さんはいつもこちら側のいい点を盛り上げて話してくれるから話しやすいし、ありがたい。よき相談相手、と勝手に頼りにしています」
牧野さん
「そうだったんですか、僕は逆でしたよ。引く手あまたのおふたりだし、“百貨店は相手にしてもらえないのかな”なんて結構緊張しながら突撃したんです。ただ、 諸先輩方に“こちらがきちんと相手を理解していて、はじめて対等にお話ができるのだからね”と、よくよく教えられていました。だから、とても興味のあった伊沢さんと金井さんのこと、もちろん商品のこともしっかり調べてから伺った・・・つもりです。その代わりこちら側の事情をまとめるのが後回しになって、あのときは丸腰でした(笑)」
金井さん
「弱みを含めていろんなお話ができる人とは、やっぱり信頼関係を築きやすいと思いますね。他人事じゃなくてちゃんと自分事として考えてもらえているところに、温かみを感じているんだと思います」
伊沢さん
「“売らなくちゃ”というプレッシャーに潰されそうになることもありますからね。とくに“百貨店”という土壌に慣れていないうちは、ほんの少しのことでも相談させてもらえるとどんなに安心できるか。僕たちは百貨店にとってお客様ではなく、同じ方向を見て進む仲間でありたいと思っていますから」
お互いの成長と進化に必要なのは
伝えるちからと、繋ぐちから
牧野さん
「伊沢さんと金井さんがつくるお菓子は、とにかくおいしいんです。さらに、そのこだわりというか、世界観が確立しているところが大好きなんです。たとえば金井さんのつくる『パルファン』は、ほかでは体験できない香りの世界へ連れていってくれますよね」
金井さん
「人にとって香りは、記憶に残るものですよね。そんな、ふと思い出すようなケーキを目指してでき上がったのが『パルファン』。でも、それは奇をてらうことではなく、素材の選び方、焼き方などで基本を踏襲しているんですよ。新しい考え方とそれらを繋ぎ合わせた先でたどりついた、といったところでしょうか」
伊沢さん
「基本って、時代で変わっていくよね。なかでも焼き加減は随分と変わったと思う。僕たちがスイーツを学んでいる時代、たとえば常識の温度が180℃だったとしたら今は150℃、130℃に変わっていますから」
牧野さん
「好まれるものが、時代によって変わってきているんですか?」
伊沢さん
「そうですね、ザクッとした歯ごたえよりもしっとり・・・とか。あとは場所によっても好みや求められるものは違いますよ。僕のお店がある鎌倉と、ここ銀座では売れる商品が違いますし」
牧野さん
「いろいろな経験と分析あってのおいしさなんですね。そういうことって、聞いてみないと知れないものですよね」
金井さん
「そんな変化や違いを感じるためにも、やはり“基本を知っている”ということが前提にあって欲しいなと思いますね。僕は今後、食全般について“伝える”ということを視野に入れていきたくて。自分自身もまだまだ学んでいる最中ですが、次の世代に日本食材のことを伝えたい。土地、旬、香り・・・素材の基本を知ったうえで何がおいしいのかを、それぞれに見つけてもらいたいですね」
伊沢さん
「僕は、大好きなヨーロッパの伝統を最高においしい形で日本に伝えたい。たとえばフランス人って、濃くて酸味の強いものを好むんです。昔はそのまま伝えるのがベストとされていましたが、今はよさを引き出してアレンジするのがいい時代。新しい世界観を、日本に合うかたちで伝えていきたいですね」
牧野さん
「自分のお店のことだけでなく、そんなふうに広い視野で食のことを考えているところが僕は好きなんだと思います。しかも、その考え方は出会った頃から一貫して変わってない。おふたり、根底が似てますよね(笑)」
伊沢さん
「でも、当初は自分が百貨店でやっていけるのか、不安でほかと比べてばかりいましたよ。そこでも“こういう商品があるといいよ”とかアドバイスをいただけたから。しかも、そうやって開発した商品が本当に毎日売切れるくらい評判がよくて!」
金井さん
「そうそう、毎日売り切れてたんだよね、『サブレ・ショコラ』」
牧野さん
「手土産を探しに来てくれた知り合いのシェフにおすすめした際も、ものすごく喜んでもらいました。シェフが贈った先もみなさん食に関わる方で、みんながおいしいっていってくれるってすごいですよね」
伊沢さん
「百貨店で何が売れるか当初は分かっていなかったので、ベースになるキーワードやアドバイスはとても助かりました。そこから自分なりにいろいろ考えて作ったものがお客様によろこばれて、ありがたいですね」
牧野さん
「すべてのお店にそれぞれストーリーがありますが、おふたりのこの世界観と想いをもっとお客様に伝えたいんです。知っていただたうえで味わうと、きっと僕みたいに心底感動すると思うんです」
金井さん
「お客様のリクエストに応える、ということは、ひとつの伝える手段ですからね。僕も洋菓子にとどまらず、いろんな角度から食の素晴らしさを発信していけたらいいなと思っています」
伊沢さん
「牧野さんとご一緒できたおかげでアイデアの引き出しが増えました。“自分が好き”も大切ですが、“お客様の好き”をもっとかたちにしていきたいです。そのためには、これからもたくさん相談をさせてください」
牧野さん
「新しいお客様との“つながりの場”を考えていますので、今後ともよろしくお願い致します!」