銀座からはじまる『もの繋ぎプロジェクト』

2020年の、ほとんどを埋め尽くしてしまったコロナ禍。この未曾有の事態に、日本を代表する街・銀座でひとりの若者が立ち上がりました。
「銀座をこのままにしてはおけない」。
小さいけれどとても熱い灯火がいま、大きな炎となり、みなさまの前に。まずは銀座から、ものと、人と、想いとを、全国につなげていきます。

想いを可視化してつないでいく
シンプルで、一直線な行動に共感が集まって

『木挽町よしや』三代目の斉藤さんが、たったひとりではじめた“物々交換”。日本中が静寂に包まれつつあった春先、銀座の街にもその凍るような風が吹きはじめていました。得体の知れない敵がもたらす現実を目の当たりにするうち、斉藤さんはいても立ってもいられなくなり、行動に移したのでした。

斉藤さん
「私がこのやり取りをはじめた大きなきっかけは、3つあります。
ひとつめは、大好きな『木挽町辨松』さんが閉店したことです。銀座で152年も続く老舗のお弁当屋さんなのにと、自分事のようにショックで。事実を受け入れるしかできないでいる自分を腹立たしくも、もどかしくも・・・。
ふたつめは、自分のお店での出来事です。大量のどら焼きの予約注文が、前日に突然キャンセル。そのこと自体の衝撃もありましたが、SNSで発信したところすぐに『三笠会館』さんからメッセージをいただきまして。“そのどら焼き、全部いただきます”と。ここで、はっとさせられたんです。現代ならではの、このスピード感。少しだけ、“なにかできること”が見えたような気がしました。
最終的な答えが出ることとなった3つめのきっかけは、『煉瓦亭』さんとの何気ないやりとりです。“今日は多く作ったのでどうぞ！”と、あつあつのカツサンドをいただいたので、お返しにどら焼きを・・・。あれ？
あぁ、この“もの”を介したやり取りって、風情があるなぁ。好きだなぁ。
日常茶飯事のことが、得体の知れない敵におびえる毎日のなかで際立った瞬間でした。そんな想いをまたSNSで発信すると、想像以上の反響が。
そうか。これが、現代流の風情なのかもしれない。
たくさんの人とつながるSNSに、ものを介した人と人のやり取り＝物々交換の様子をあげるとこんなにも興味を持ってもらえる。これを続ければ、きっと騒ぎが収束した時に思い出してもらえる。そのための種をたくさん蒔いておこう。そこでまずは、私が自転車で回れる範囲から、と物々交換会をはじめることになりました」

そんな彼の行動に共感し、仲間として立ち上がったのが99の企業。もちろん『松屋』もそのうちのひとつです。早くから彼の行動に注目し、見守っていた株式会社松屋専務・古屋がその時の想いについてお話します。

古屋
「とにかく“すごいな”と思っているのは、斉藤くんがたったひとりではじめて、続けてきたという事実。
物々交換の様子を知ったのは私も例にもれずSNSを拝見してのことです。毎日、いろいろな人やものが登場し、それもほとんどが銀座に関わっている。銀座に根を下ろす企業として、やはり気になりますよ。緊急事態宣言もあり、周囲のお店や、企業や、人が、どんどんと窮地に立たされていく様子はただ事でなく、そして他人事でもない。
私自身もなにかできることは・・・、と想いを巡らせていた時期に、機能が停止してしまった銀座でひとり奮闘する斉藤くん。その様子を目にするにつけ、“きっと大丈夫。また銀座は、元気になれる”という、明るい想いのほうが強くなりました。もちろん私だけでなく、銀座のみんながそこここで斉藤くんを応援し、見守っていましたよ。結構、粘り強い性格なんですね」

斉藤さん
「はい、“押しは強く、腰は低く”を掲げて続けてきました（笑）。でも私も、はじめた頃はこんなに大きなことになるなんて思いも寄りません。ですから、銀座にこだわらず、“東京”とするなど視野を広くしておいたほうがいいかな、という考えもあったんです。ところが、はじめてみると本当にたくさんの方にご協力をいただけて。あらためて銀座の絆の強さを痛感しましたね。まさに、古くからの情と現代の考えが融合している街だな、と」

古屋
「参加者の顔ぶれを見ると『銀実会』や『全銀座会』、『銀座通り連合会』など、銀座を守るさまざまな会のメンバーが多くて。これこそが、銀座に関わる人たちの魂というか、想いのあらわれなのかな、と思います。助け合うこと、とくに後輩に対してその想いが強い。みんな先輩からそれを受け継いできているから当たり前なんですけどね。
また、やはり銀座は商業の街なんだなぁ、とも感じました。お店だけでなく、たとえばビルのオーナーだったり、病院の経営をしていたり、どんな立場の人も“人とものの流れが絶えない街”という銀座を守ろうとしているんだと、胸にぐっと刺さりましたね」

斉藤さん
「諸先輩方のサポートなしに、この物々交換会は続けられませんでした。キャンセルされたどらやきを一手に引き受けてくださったあの『三笠会館』さんに“恩返しをしたい”と申し出たところ、返ってきたお言葉は“その気持ちを、後輩やほかの必要なところへ回しなさい”というもの。懐の深さ、他者を想う気持ちに感動しましたし、私も次の世代に同じ言葉をかけてあげられるような存在になりたい、なるんだ、と心に誓いました」

100の想いがつながったところでひと区切り
もの繋ぎプロジェクト展が始動します

コロナ禍で弱っていく銀座を目の当たりにし、物々交換という方法で行動をはじめた『木挽町よしや』三代目の斉藤さん。彼の強い想いが多くの人に伝わり、参加企業は100を目前に。

古屋
「銀座にはたくさんの組合や集まりがあって、つながりのベースが豊富な街。でも、そういった会を通すのではなく、新たな形でたくさんの人をつなげたというところも斉藤くんのおもしろさですね。いまあるものとは違う珍しいパターンで、つながり方が興味深い。それにしても、私のところにいつ話がくるのかな、なかなかこないなぁと、心待ちにしていましたよ（笑）」

斉藤さん
「私のほうも、いつお声がけしようかと悩んでいたんです（笑）。ある時、『歌舞伎座』さんとの物々交換の際に“交換式をしましょう”ということになりメディアの方々がいらっしゃったんですね。そのおかげでよりたくさんの方の目にとまっていただけ、さらに知名度が上がることになり・・・。みなさんのおかげで少しずつ大きくなっているこの試み、どこかで一度区切りをつけつつ銀座にお返しをしなくては、と考えた時、やはり“人とものの集まる場所”として『松屋』さんに頼りたい！と。
その想いを企画書にまとめて、緊張しながらも『松屋』さんに乗り込んだわけですが・・・実は、家族からは“『松屋』さんに、そんな図々しいお願いをするなんて”と、猛反対されていました（笑）」

古屋
「斉藤家でそんなことが起きていたなんて（笑）。こちらはお話をいただいて、せっかくだからなにかできたらいいね、という気持ちしかなかった。すぐに現場の人間と会ってもらい、『もの繋ぎプロジェクト展』の開催に向けて動き出したくらいです。銀座は商業の街だから、街がダメになるとみんなダメになってしまう。街全体が運命共同体、といったところかな。
だから、このイベントも“街と、どう取り組んでいくのか”がもっとも重要なお題。なにかする時にはどうしてもお金がかかるし、じゃあ、物々交換会に参加したみんなが負担するのか、といえば、それでは意味がない。叶えたいのは、お店や商品の紹介ができ、販売につながり、最終的に銀座全体が盛り上がること。時代にのっとったサスティナブルな精神や、“銀座のために”というピュアな動機も損ないたくなかった。そんな想いを具現化するために決まったのが、『もの繋ぎプロジェクト展』です。この方法がベストだという答えにたどり着いて、一緒に動くことになりましたね」

斉藤さん
「『松屋』さんの、銀座に対する愛の大きさがすごくて、いつも圧倒されています。多くの負担もいとわず今回のプロジェクトにも賛同をいただき、感謝の言葉しかありません」

古屋
「実際にこのイベントを開催したからといって、街が一気に元通りになるわけではない。いまは、あらためてチームになること、街全体がひとつになることが大切だと思います。それが叶えば、もしもまた敵がきたとしても、きっと戦える。
今回のイベントは、来ていただくお客様に対して銀座のみんなが同じレベル感で、温度感で、“銀座らしく”やりたいと思ってる。『松屋』は本店が銀座にある唯一の百貨店。社のメンバーが賛同したのも、みんなが同じ想いを抱き、街のためにと考えたからだと思います」

大変な事態が起きた2020年。でも、だからこそみんなの絆を再確認できた2020年。
銀座は、すでに前を向いて進みはじめています。
『もの繋ぎプロジェクト展』で、たくさんの想いを感じてください。

ちなみに『松屋』は98社目として参加し、『東京タワー』と物々交換を行いました。