商品力を超える人間力。松屋銀座らしさの要は「コンシェルジュ精神」vol.4

ギフトのちからと、ひとのちから

松屋銀座から代替えの利かないおもてなしを

呉服・美術担当　広保さん

その空間を丸ごと幸せにするには？

ギフトのちからは、使い方次第

松屋銀座7Fの呉服・美術売場を担当し、後輩の教育係でもある広保さん。お客様の一挙一動から先の先まで見据えた提案をおこなう、おもてなしのプロフェッショナルです。

「とある月の初旬に、ご出産を控えたお客様がいらっしゃいました。月末の出産予定より少し前に、お義父様が還暦を迎えられるとのこと。ご自身が動けるうちに、先回りして還暦のお祝いをご準備なさろうといらっしゃったのでした。

どんなギフトにしようか決めかねていらっしゃいましたので、お客様のご状況、先様であるお義父様のご状況、お好みなどを、お話をしながら少しずつ伺っていきました。お義父様はビールがお好きとのことでしたので、当初はビールグラスをおすすめしていましたが、会話が進んでいくうちにご主人様のご実家は近畿地方で、お義父様、お義母様、お義祖母様の3人でお住まい、ということが判明。コロナ禍ということもあり、出産後はいつ孫の顔を見せられるかわからない……。お客様はそんな寂しさを抱えながら、本来なら直接お祝いしたいところをギフトだけでも、というお気持ちでいらっしゃるのでした。

本当だったら、今までと同じ状況だったら、用意したギフトを手に“お義父さん、おめでとう。ビールがお好きだから、これにしたの”“お義母さんにはこれを、お義祖母さんにはこれを……”“たくさんありがとう、悪いわねー”……なんて、微笑ましく温かい想い出のワンシーンだったはず。

お客様は、あるはずだったそんな空間ごと感じとれるような、ありったけの想いを込めてギフトを贈りたいはず。

そこで、最終的にたどり着いた答えは、夫婦汁碗でした。

お義父様とお義母様、ご夫婦で使うものにしましょう、と。還暦はご自身の生まれ年に戻るものですから、おふたりにとってのリスタートですよね、と提案すると、お客様はとてもよろこんでくださりました。そして、お義祖母様にはかわいらしいマグカップをお選びに。

“その人のためだけ”のパーソナルなギフトでは、ときに伝わりにくいことがあります。

当初おすすめしていたビールグラスだけをお贈りしていたら、きっとお客様の“みんなでお祝いしたかった”という想いは伝わらない。私はそう感じ、ご夫婦で使えるものを提案したのでした。

ギフトには“想いを伝えるちから”があります。

そしてお客様は、そのちからの使い方を私たちプロに頼っています。

そのことを忘れてはいけないと考えています」

アドバイザーの壁を超えて

私たちが目指すべきはコンシェルジュ

商品そのもののよさにこだわるのはもちろん、どんなものを、どんなタイミングで、どんな方に贈るか、そのマッチングにも意識を向ける広保さん。数え切れないほどの組み合わせを抱えながら、すべてのお客様と接しています。

「つねづね“ベストな接客とは”“松屋らしさとは”について考えています。商品知識や丁寧な接客姿勢は基本ですが、まずはお客様のニーズに合わせた提案ができることが、ひとつ成長したな、と感じられるステップでしょう。次のステップは、お客様のニーズだけでなくその周囲の状況や先様のことまでを考慮した提案ができること。この段階で、お客様にとってのよきアドバイザーまで腕を磨けたといえるかもしれません。しかし、松屋らしさとして必要なのは、その先です。

たとえば、ある人は毎朝紅茶を飲むのが日課。でもある朝、その人のもとに運ばれてきたのは炭酸水。不思議に感じつつもひとくち、もうひとくちと喉をくぐらせていくと、心地よい刺激で満たされていく。

ああ、私は今朝、炭酸水が飲みたかったんだ。

その人の好みを熟知したうえで、体質やくせ、その日の体調、さらには気温や湿度など外的要因などあらゆることを含んだ答えが出せること。

加えて、その人に求められていなくても、本人さえも気づいていない答えを提案できる人。

お客様と先様に、新たな幸福の存在を気づかせてあげられるコンシェルジュ。

そんな精神を宿した人材を増やし続けることが、松屋らしさではないでしょうか」