-松屋銀座開店100年- 銀座三丁目 百年物語 第8話
MATSUYA GINZAのロゴタイプは1978(昭和53)年に導入されました。 松屋が社運を賭けたCI※の変更を行ったときに、その最大の象徴として、広告や包装紙などに使っていた松鶴マークを、この横長のロゴに変更したのです。
※CI=Corporate Identity(コーポレート・アイデンティティー)の略。企業の理念や価値観を統一し、明確化(デザイン化)することによって、ブランド価値を高めようとする戦略。
PAOSによるCIマニュアル
伊勢丹から招聘した、のちに社長となる山中鏆副社長が、(株)PAOS(パオス)にCI戦略の開発を依頼したのが1977年1月。翌年9月30日には松屋銀座は第1次リニューアルオープンをし、その際に全面的なCI刷新が成されたのです。 国内外で活躍する4名のグラフィックデザイナーによる10作品のコンペティションで選ばれたのは、「従来型の百貨店のシンボルマーク」から最もかけ離れた仲條正義氏の案でした。仲條氏は、資生堂の『花椿』や「資生堂パーラー」「ザ・ギンザ」などのデザインで知られ、松屋の後にはカゴメやスパイラル、東京都現代美術館などのロゴも手掛けています。コンペにあたっては、「ポスターや新聞広告、包装紙、紙袋など多目的の用途に使えるもので、華やかさに加え繊細さを備え、進歩的なシティーアダルトの要求を満たす」という条件が与えられましたが、仲條氏の案が最も「コンセプトを反映」し、「新しい」と評価されたのです。 この斬新なロゴタイプのもつ繊細で洗練された都会的センスは、まさに松屋銀座のめざすテイストと一致していました。導入から半世紀近くたった今も古びることなく、他の百貨店と一線を画す独自性を主張し続けています。
松屋アルファベット
このロゴは建物の外観や各種の広告、包装紙、手付袋、さらには封筒などにも使われ、お客様からも支持されています。多くの松屋ファンは、このロゴに「スマートな美意識」を感じてくださっているようです。仲條デザインの「松屋アルファベット」(ヘルベチカ・ライトというフォントを独自にアレンジしたもの)は店内の案内サインなどにも用いられ、この店の個性を統一的にコントロールしています。
またCI変更の一環として、一般的な「銀座松屋」とか「松屋 銀座店」ではなく、「松屋銀座」という店名にしたことも画期的でした。世間一般の店名と語順を替えることにより、人々の目や耳に軽い違和感(ひっかかり)を与え、アテンションを高めます。加えて、単なる「所在地+屋号」ではなく、松屋と銀座の一体感を強調し、「銀座」ブランドの力を借りながら、「松屋といえば銀座」「銀座といえば松屋」という結びつきを際立たせます。この手法は「バーニーズニューヨーク」と同じであり、銀座やニューヨークのように街自体のブランド価値が高いからこそ成り立つのです。さらには、「銀座とともに生きていく」松屋の姿勢と覚悟を示してもいるのです。
2006ー13年頃の外観と複数のロゴ
書き手:田代 健
松屋グループの東京ファッション専門学校校長。松屋を中心に、当グループ一筋40余年のキャリアを持ち、これまでに「松屋150年史」の副編集長などを務める。