その他
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ファッションライターLulu.の「美しいは嬉しい」vol.11
ファッションって知的好奇心を満たし喜びをもたらしてくれるんです。内面のいちばん外側がファッション。
(本記事でご紹介するアイテムは、松屋でお取り扱いのないものもあります。)
プロフィール
美しき狂気。建築のメティエダール 「ホテル川久」
こんにちは。
今回は南紀白浜にある「ホテル川久」をご紹介します。
和歌山の南紀白浜温泉街に突如現れる別天地「ホテル川久」。
初めてここに泊まった時から30年経ってもなお心揺さぶられる場所。
ホテル川久の前身は、大正の終わり頃に河内屋久兵衛さんが起こした旅館「河久」。昭和の初めに新婚旅行で泊りに来た安間千之(やすまとしゆき)さんが河久を気に入り、オーナーが安間さんに変わったのが1949年。河久から川久へ。
老朽化した川久が巨費を投じて生まれ変わったのは1991年11月20日。安間会長、娘さんであるマダム ホリ、そして建築家 永田祐三氏の3人が中心となり、「世界の数奇屋」をつくる壮大なプロジェクトが始動。
圧倒的量感。雑多な温泉街、日常のその先にそびえ立つ「心地良い違和感」に泣けてくる。
ここに世界中から夢に魅せられた一流の技術を持つ職人が集結。参加条件は、世界のどこにもないオリジナリティを追求すること、それだけでした。
通常、大規模施工はゼネコンへ一任しますが、全ての作業を各業界の一流の創り手たちにオーナー自らが依頼。
しかし、妥協なき創造は当初の予定であった200億円の約2倍のコストを費やすことになり、川久は改築から4年後に破綻。1999年、現在のカラカミグループに買収されます。
淡路島出身の左官職人 久住 章 が手掛けた全長45mの土佐漆喰の庇。塗り継が出来ないように50人がかりで1日で仕上げたという。
失われていくであろう世界中の職人技、そして芸術を集結し保存している20世紀の「建築遺産」といえるホテル川久。
そんな川久に30年ぶりに泊まりました。当時と変わらぬ崇高な建物が優しく迎えてくれました。
瑠璃瓦 “老中黄”ー瑠璃青磚廠〔中国〕
中国の紫禁城にのみ使用を許された瑠璃瓦が川久を覆います。皇帝以外使うことを許されなかった色「老中黄」です。紫禁城の瓦を焼き続けてきた窯「瑠璃青磚廠」が、国外に老中黄を使って47万枚もの瓦を焼いたのは永い歴史上初。
川久のマークが入った瑠璃瓦。
この瓦を焼いてもらうのに21回も中国に赴き、川久用に47万枚もの瓦を焼くための敷地と工場を用意したという。
金箔天井 ロベール・ゴアール〔フランス〕
世界一の金箔名工 ロベール・ゴアール が手掛けたロビーの天井。
ドイツ製の5cmの正方形金箔が手作業で貼り付けられ、22.5金の純度は陽に当たる時に最も美しく輝くように計算されています。
イタリアのフリウリ地方のモザイク集団が、手作業で床に埋め込んだローマンモザイクタイル。
シュトックマルモの柱ー久住章〔日本〕
久住章 率いる佐官集団「花咲団」が手掛けた「シュトックマルモ」と呼ばれる疑似大理石の青い柱。
アフリカ原住民が狩りをする時に用いる槍をイメージした3本槍とUFOがロビーを照らす。
ベネチアングラスのシャンデリアの柔らかな光が幻想的なラウンジ。
レストラン 「イゾラベラ(ISOLA BELLA)」ーココ・ポリッツィ(Coco Pollizi)〔モロッコ〕
モロッコ先住民族であるベルベル民族の装飾様式を唯一継承するアーティスト ココ・ポリッツィがパウロッサという赤い木を手彫りした扉が印象的なレストラン「イゾラベラ」。
床の寄木細工はフランスの木工工房を主催するジル・ゴベールによるもの。
プール 「風車」
ガラス張りの三角の天井が連なるプール「風車」。
私はここからの景色が好き。レンガの組み方の違いによる複雑な紋様、質感と量感の見事な重なりがどうしようもなく美しい。
煉瓦(IBSTOK社)ーブライアン・ブレイク(Brian Blake)〔イギリス〕
世界規模で希少となりつつあるレンガ技術の熟練工として川久の外壁に挑んだのが、ブライアン・ブレイク。
レースのような麗しい煉瓦の組み方に見惚れる。
川久で使用されたのは、イギリスのIbstock社製の73種類の煉瓦。総数にして140万ピース。この規模のプロジェクトは今世紀最大のもの。
うさぎーバリー・フラナガン〔イギリス〕
私の夢に時々出てくる彫刻家 バリー・フラナガンのうさぎ。
川久の正面、高さ21mの頂に蒼空を悠々と飛ぶうさぎ。
珪藻土の壁ー久住章〔日本〕
今はどこにでもある珪藻土の壁ですが、久住章の提案で最初に導入したのがここ川久。
3、5、7階の床はジル・ゴベールによる寄木、それ以外の階は中国段通が敷かれている。
最高の職人を集結し、超一流と呼ばれるものを集めただけでは、心震わせる美は仕上がらない。ファッションと同様、全身をブランドで固めただけでは素敵に見えないのと同じ。個々のパーツを繋げ、「美」に昇華させるのは、オーナーの揺るぎない美意識。
天井から太いワイヤーで吊り下げられた浮遊感ある螺旋階段。
その時代の最高の技術と想像力によって創造された建築物「ホテル川久」。
ここは時代の知性と感性が集うサロン的役割も果たしている。
出会った瞬間、涙が溢れた建築物は今までに3つ。バルセロナのサグラダ ファミリア、モスクワの聖ワシリー寺院、そしてここホテル川久。 最高をありがとう。
ホテル川久
所在地:和歌山県西牟婁郡白浜町3745
TEL:0739(42)3322
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