その他
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ファッションライターLulu.の「美しいは嬉しい」vol.8

ファッションって知的好奇心を満たし喜びをもたらしてくれるんです。内面のいちばん外側がファッション。 (本記事でご紹介するアイテムは、松屋でお取り扱いのないものもあります。)
プロフィール
Lulu.
2010年~2021まで11年間、VOGUE JAPAN でブログを執筆。馬と博物学的世界、ムー的世界を愛し、不思議を視たい!と旅に出て、「好き」と「感動」を掻き集める。高校時代に障害飛越にのめり込み、今はたまーに外乗を楽しむ50代。現在はnoteで発信。

好奇心と記憶を纏う。「Pfütze(プフッツェ)」のジュエリー

こんにちは。 ある日インスタのタイムラインに流れてきた一枚の写真。氣付いたら、投稿されているすべての写真を見終わっていました。

採集した方の想いが伝わってくる標本箱。

北康孝さん、賀来綾子さんのご夫婦おふたりが2007年に立ち上げたジュエリーブランド、Pfütze(プフッツェ)の投稿でした。


私の記憶の奥深くにちょこんといた小さきものが、沸々と膨らんでくる感覚を覚えました。
「この方にお話を伺いたい」。

取材に向かったのは、松屋銀座「デザインギャラリー 1953」で開催された個展会場。


この会場で個展を開催するようになって14年。「毎年足を運んでくださる方々に、今まで見たことのない、新しいものを見てほしい。」そんな思いから、個展に合わせて新作を発表するようになったそうです。


2024年の新作は〈視点〉。
見る角度や方向によって、同じ物事や形が全く異なるものとして認識される。その現象の不思議さをジュエリーに落とし込んだシリーズ。

〈視点〉ピアス

バングルは0度/30度の2種。両方付けてみましたが、似合ったのは30度の楕円形。私は物事を斜めから見ているのかしらねー

〈視点〉バングル斜めのラインへの光の反射が印象的だった30度。

Pfütze(プフッツェ)はドイツ語で水たまりという意味。ドイツ語圏にいらっしゃるお身内の方からの発案だったそうです。

〈水滴ガラス〉 板状のベネチアンガラスを手作業で様々な形にカットし、溶かして製作したオブジェ。

「小さい頃、水滴がプルプルと形を変える様をじーっと眺めながらお風呂に入ってたんですよね」と北さん。

〈水滴〉ピアス

プフッツェのジュエリーは自然物・現象から発想を得て、それらを形に落とし込んでいます。

樹木の葉を採集し、型取りしてつくった〈木の葉〉。葉の表と裏、両面から写し取り1枚に貼り合わせて原型をつくっているので、どちらの面も自然の質感が楽しめる。

惹かれたのはきっとこういう妥協なきプロセス。お話を伺っているうちに、私を惹きつけた「何か」の輪郭が少しづつクリアになってきました。

〈木の葉〉ピアス

美大出身のおふたりですが、ジュエリー製作の技術は独学で学んだといいます。「母が彫金をやっていたのを見て、身に着けていつも一緒にいられるものがつくれるんだ、と思ったのがきっかけなんです。」と北さん。

「同じものが連続しているのが好きで」と、最初につくった蜂の巣。


そうそう、私はこの蜂さんの巣に会いたかった。


車のエンジンなど、大きな鋳造も請け負っていたという父親、11匹のセッター犬と共に暮らしていたという母方の祖父、ご自身を育んだ高知の自然と、そこでの思い出を大切になさっている北さん。
お話を伺いながら蘇ってきたのは、懐かしい記憶。

〈シロツメクサ〉ブレスレット

茎も丁寧に愛でる。

〈シロツメクサ〉ネックレス

〈カラスノエンドウ〉ブレスレット

北さんが小学校2年生の時に採集した貝殻を収納した標本箱は、お祖父様のお手製。「拾ってきた貝殻と毎日一緒にお風呂に入って、歯ブラシでキレイにしてたんですよね。」

この写真に惹きつけられた意味が解った。ここには柔らかい愛情と好奇心がぎっしりと詰まっている。 プフッツェの "Cabinet of Curiosities"。


プフッツェのジュエリーには石が使われていません。どうして?という私の質問に「シルバーやゴールドを単なる石の土台にしたくなかったんです。それに…石をやるなら掘りに行きたいから」と。

ああこの深さだ、私が惹かれたのは。向き合う対象への興味の深度。それは情熱とか熱量という言葉に置き換えることもできる。
どこまでも深く果てしなく自由。プフッツェのジュエリーにはこの意識が貫かれています。

実物を見てその美しさに感嘆した〈朝日〉。

〈朝日〉リング

地金で色をつくる。それを意識したのは虹を見たときだったそう。
日本では7色、USやUKでは6色、ドイツやメキシコでは5色、ロシアでは4色などなど、虹の色認識は国によって違います。
色は無限に作り出すことができる。それは自由を導き出す作業のように感じたという。

日本の四季を色のみで表現した〈四季〉シリーズは、地金の色作りから始まりました。

特注で調合してもらったという色見本のチップ。

『プフッツェのジュエリーに主に使っている金属は金・銀・銅・プラチナ・パラジウムですが、この5種の配合や比率を変えることで多彩な色が生まれます。自然光のもとでじっくり見比べて、やっと分かるほど微妙な色の違いのものも。』ーPfütze

〈四季〉ネックレス

冬が好きだった。プラチナとホワイトゴールドを使用した繊細なグラデーションを持つ冬は、湿度ある冬と、キーンと乾いたふたつの冬を感じさせてくれました。

〈四季〉冬 ネックレス

プフッツェは自然の現象をもジュエリーに落とし込んでいます。
見えないものを視る。そしてそれを身に着けることができる。なんて嬉しい。

太陽系の惑星を10億分の1サイズにした〈ナノ〉シリーズ。

〈ナノ〉シリーズ

単位も、

〈ナノ〉ピアス

惑星軌道も纏える。

〈惑星軌道〉ピアス

〈野原〉シリーズ。可能なものは採集した葉の質感を表裏とも型取り、花は実物を観察しながらひとつづつ手で作り上げた小さなパーツたち。
サクラソウは近年は日本国内での自生地はほぼなくなってしまい、残っている自生地は天然記念物に指定されているそう。

〈野原〉パーツ

『日常の中でふと足元を見たり、少し目線を変えるだけでこれらの植物を見つけられ、その小さな存在の中にある美しさや生存戦略の面白さを感じられる。この当たり前のようでいて貴重なことを意識にとめたいと思い、このシリーズを製作しました。』ーPfütze

それぞれ草花の組み合わせが異なる10種類のピアス。

〈野原〉ピアス

愛しさが集まった〈野原〉のピアス

デザインから製作までを一貫して行うプフッツェのジュエリー。
自らの生み出したものへの敬意と責任が感じられます。

すべてのシリーズを実際に見てオーダーできるのは年に一回の松屋銀座での個展のみ。デザイナーが在廊し、プフッツェのジュエリーを愛するスタッフたちから話を伺いながら手にするジュエリーはとても愛おしい。


懐かしくも、どこかここじゃない「遠く」へ運んでくれるプフッツェのジュエリー。もう…来年の個展が待ち遠しいです。

〈海辺〉ブレスレット

本記事は、2024年6月にイベント出店したブランドの商品をご紹介しております。
コラム内に掲載している商品は、常設では取り扱いのない商品となります。

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