-松屋銀座開店100年- 銀座三丁目 百年物語 第2話

おかげさまで2025年、松屋銀座は開店100周年を迎えます。 本連載では、銀座三丁目で繰り広げられた、松屋ならではのあれこれを振り返りつつ、「松屋らしさ」を紐解いてまいります。
天井の梵字(ぼんじ)

松屋銀座1階の天井に梵字のプレートが設置されているのを、ご覧になった方はいらっしゃるでしょうか。梵字はインド古語(サンスクリット語)を表す文字で、仏教を介して日本に伝来したのは奈良時代のこと。日本ではこの文字そのものに神仏が宿っているとする考えが広まり、「世界で最も美しい文字」とも言われています。今ではむしろファッショナブルなアイテムとして世界中に知られ、ミュージシャンやスポーツ選手がタトゥーやアクセサリーに使っているのも、よく見かけます。

 

銀座店では1929(昭和4)年に高野山龍光院より龍光不動明王をお迎えしました。お客様ならびに松屋を悪いものから守るために、屋上の宝殿に安置されています。その後、第二次世界大戦やGHQによる銀座店全館の接収を経て、1953(昭和28)年に営業再開を果たした松屋。11年後の1964(昭和39)年には大増築を行い、銀座3丁目のワンブロックを占める新生松屋が誕生しました。その際に、「屋上の不動尊を移設しないと増築後の出入口が鬼門に当たるため、各出入口に四天王を祀るように」との指摘を受けました。「四天王」というのは、仏教世界の中央にある須弥山(しゅみせん)の東西南北で、鬼や悪者から仏様や仏法を守っている神様たちのこと。東は持国天、西は広目天、南は増長天、北は多聞天が守ります。

 

当初のプランでは各出入口に四天王の像を設置しようとしていたそうですが、最終的にはそれぞれの神様を表す梵字のプレートになりました。これらの梵字は、浅草寺の清水谷恭順貫主(かんす=宗派の最高責任者)の揮毫(きごう)によるもので、1973(昭和48)年に揮毫・開眼(かいげん=神威を迎え入れること)し、天井に設置されました。


東を守る持国天の梵字だけは、従業員エリアの商品ストック場内に設置されているので、お客様が見ることはできませんが、それ以外は店内1階で確認することができます。 四天王は神々の王である帝釈天の家来として仕えています。そのため、2001(平成13)年に銀座店の大規模リニューアルが行われた際には、龍光不動尊の直下に当たる部分の1階天井に帝釈天の梵字が加えられ、今日に至っています。


梵字にはそれ自体に神聖な力が宿っていて、私たちに様々なご利益をもたらし、邪気や災難などから守ってくれると言われています。松屋銀座の梵字はお客様と松屋を、その安寧と幸福を、日々守り続けているのです。梵字と屋上の龍光不動尊に守られた松屋銀座自体が、パワースポットなのかも知れませんね。

浅草寺の清水谷恭順貫主の揮毫による開眼記

 

北を守る「多聞天」(京橋口案内所前)

 

東を守る「持国天」(バックヤードの商品ストック場内)

 

西を守る「広目天」(正面口案内所前)

 

南を守る「増長天」(ミュウミュウ奥通路)

 

四天王を従える「帝釈天」(化粧品売場内通路)

書き手:田代 健

松屋グループの東京ファッション専門学校校長。松屋を中心に、当グループ一筋40余年のキャリアを持ち、これまでに「松屋150年史」の副編集長などを務める。

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