その他
カルチャー/美術

伝統技術を継承し、人と地域の未来を拓く。
<能作>と松屋が紡ぐ、私と誰かにいいこと。
『BEAUTIFUL MIND』vol.2

富山県の伝統文化とものづくりに焦点を当て、生産者とその取り組みをご紹介する今回の「BEAUTIFUL MIND」。富山県高岡市で100年以上にわたり鋳物産業を受け継いできた〈能作〉の代表取締役会長・能作克治さん、昨年代表取締役社長に就任した能作千春さん父娘に、松屋の地域共創プロジェクト代表・柴田が、地域や次世代への想いについてお話をお伺いしました。
プロフィール

能作克治さん(のうさく・かつじ さん) 1958年福井県生まれ。大阪芸術大学芸術学部写真学科卒業。大手新聞社のフォトグラファーを経て、1984年能作入社。未知なる鋳物現場で18年間職人として働く。2002年株式会社能作 代表取締役社長に就任。自社ブランド「能作」の展開を開始。2003年、世界初の「錫100%」テーブルウェアの製造販売を開始。2016年藍綬褒章受章。2023年ダイヤモンド経営者倶楽部 2022 年度「マネジメント・オブ・ザ・イヤー」大賞受賞。2023年株式会社能作 代表取締役会長に就任。 能作千春さん(のうさく・ちはる さん) 1986年富山県生まれ。神戸学院大学卒業。神戸市内のアパレル関連会社で通販誌の編集に携わった後、2011年能作入社。現場の知識を身に付けるとともに受注業務にあたる。製造部物流課長などを経て、2017年の新社屋移転を機に産業観光部長として新規事業を立ち上げる。2018年専務取締役に就任。2019年「錫婚式」のブライダル事業を立ち上げる。2023年代表取締役社長に就任。 柴田亨一郎(しばた・こういちろう) 「松屋 地域共創プロジェクト」代表・顧客販促部IPクリエイション課 課長 1973年神奈川県生まれ。96年松屋入社。様々な部門を経験し、2001年宣伝装飾を担当する部署に異動後、事業開発部、ブランドデザイン部などを経て22年から現職。22年には「ねぶたのクリスマス装飾」で、国内最大級のデザインアワード「日本空間デザイン賞2022」金賞を受賞。宣伝広告、ディスプレイなどの知識を生かし、独自性のある地域共創事業を展開している。

◎錫物の街・富山県高岡市で、ものづくりに新たな風を。
柴田:能作さんは、400年以上の歴史がある鋳物の街・富山県高岡市にて100年以上、鋳物製品を作り続けていらっしゃいますが、この土地でものづくりを行う魅力について教えていただけますか? 克治会長:高岡市は伝統的工芸品「高岡銅器」の産地なので、鋳物作りを基軸に、着色や彫金などの装飾の分野も含めて様々な産業が広がっていて。ものづくりは非常にしやすいんですよね。 柴田:ものづくりにおける、能作さんならではのこだわりや強みはどんなところにありますか? 克治会長:伝統産業って分業体制なことが多いんですが、うちの会社は「生地屋」と言われる「鋳造して形を作り出す役目」をずっと担ってきたので、新しい製品の企画とか実際に作り出す時のスピード感は非常に早いと思います。 柴田:確かに。能作さんといえば、ものづくりそのものはもちろん、お客様とのコミュニケーションの部分もしっかり大切にされながら、一方で、製品の開発から生産までのスピードが本当にとても早い印象です。今のこのスタイルはどのように築かれたのでしょう? 克治会長:僕が代表になった2002年に、まず自社ブランド「能作」の製品開発を始めたんです。以前から「お客様の顔を直に見たい」という思いがずっとあったので、松屋銀座さんをはじめ、全国各地に直営店を出店して。 柴田:そういったことが、きっかけに? 克治会長:そうですね。販路の拡大に取り組む中で、日本の伝統産業がどんどん衰退している理由がいたってシンプルであることに気づきまして。時代は変化しているのに、昔作っていたものをそのまま作り続け、流通方法も改革していない生産者が多い、と。技術力はあるけど、ものを売ることは苦手というか。それが製品を一度にたくさんは作れないという問題にもつながっていて。でもやはり、伝統産業だからといって技術開発をしなくていい、ということはないんですよね。そんなことから、僕たちはオーダーいただいた製品を納期通りに仕上げる体制を作るために、技術力を磨き、新しい鋳造法を編み出して、今に至っています。
◎地元の誇りを次世代に継承し、地域とともに育む。

柴田:能作さんは、地元・高岡の雇用をしっかり生み出し、従業員のみなさんが働きやすい環境を作ることにも尽力されているところも、非常に素晴らしいですよね。 千春社長:私は自社工場を広く開放してきたことが今につながっていると思っています。産業観光に力を入れ始めた2017年頃から、それこそ父がずっと、工場見学で「見せる」というところだけは徹底して行ってきて。 柴田:能作さんといえば、工場見学ですよね。 千春社長:富山県高岡市では、地元の2大産業「高岡銅器」と「高岡漆器」について学ぶことを目的に、小学5・6年生と中学1年生に、「ものづくり・デザイン科」という授業があるんですが、その一環で毎年地元の子どもたちも大勢やってきてくれて。 克治会長:うちの会社では前々から工場を「見せる」ことを積極的に行ってきたので、その工場見学先として、お声がけいただくことも多いんですよね。 千春社長:私の娘は小学5年生なんですが、今まさにこの授業の前段階として、高岡銅器の歴史などを模造紙に書いてまとめたりしながら、学びを深めているところで。最終的には、つくり手のもとを訪ね、実際に作品を見たりそこで働く人の声を聞いたりして、地元の良さに触れるのですが、子どもたちにこの土地で受け継がれている伝統の素晴らしさを伝えることは本当に重要だなと感じています。このように先を見据えた活動をしていくことが、産業が続いていくことにつながると思うので。 柴田:子どもの頃からシビックプライドを持つというか、自分の街が好きになるためには教育ってすごく重要ですよね。 千春社長:そして今、子どもの頃に工場見学に来てくれた人たちが大人になり、続々と、「能作に入社したい」と、やってきてくれる状況が生まれているんです。 柴田:そうなんですか! 千春社長:私たちは日頃から、ものを売るだけでなく、その背景やこれまでの歴史、職人たちの情熱などをいかにしてお客様にお伝えし、理解された上で、製品を手に取っていただけるか・・・というところを大切にしているのですが、そこに魅力を感じ、都内や県外から、入社を希望してくれる人が後をたたなくて。 柴田:それはすごいですね。 千春社長:伝統をつないでいきたいとか、新しいチャレンジがしたいという志を持つ方々を採用しているので、多彩な人材が集まって。女性もすごく増えています。みんながそれぞれに心地よく働けるようにすることは経営責任だと思っているので、この先もそこは追求したいと考えています。

※画像はイメージを含みます。

◎富山の伝統とものづくりが、松屋銀座に集結。
柴田:今回は初の試みで、装飾以外にも、1階のスペース・オブ・ギンザにも出張店舗を出していただいて。体験型イベントなどの企画も盛りだくさんで。 千春社長:やはり商品の製造工程や歴史を直接ご覧になられると、そのものの付加価値というのを理解し、愛着を持っていただけるんじゃないかなと思っていて。なので、今回の企画・展示でも、そんなスペースを作り上げられたらいいなと思っています。 克治会長:何より、地域のPRができるっていうのがありがたいですね。 柴田:今回は、同じ空間に富山県の和菓子屋さんなどにも出店していただき、様々な催しを展開する予定で。 克治会長:和菓子店の五郎丸屋さんには、うちの会社がオープンする時に、人気製品のはりねずみ型のコケ盆栽「はりねずみ」をかたどった、オリジナルの薄氷菓子を作ってもらったんですよ。 千春社長:引網香月堂さんも、特別な機会にお店で出す器として、弊社の製品を使っていただいたことがあったり。 柴田:もともとそんなおつきあいもあったんですね! 千春社長:私たちは、異業種の方々とのお付き合いも大切にしているので、同郷の様々なつくり手の皆さんとご一緒できるのはとても嬉しいです。 柴田:能作さんは、富山の工場から、職人さんにお越しいただけるんですよね。 千春社長:お客様とつくり手が直接つながる空間というのは、本社以外ではなかなか持つことはできないので、そこにも特別感を感じていただけたらなと思っています。世界に二つとない製品を、その場でお作りする企画もご用意しています。
◎伝統をつなぎ、革新を重ね、次の100年も、鋳物とともに。

柴田:千春社長は、トークショーにも登壇されますよね?どんなお話をされる予定ですか? 千春社長:SDGsの取り組みや、未来に向けたお話しができたらなと思っています。持続可能というところで言うと、弊社の100年続いてきた歴史自体がまさに持続してきたものになるので、これから先も200年、300年と継承していくことにかける思いを、皆様にお伝えできたらと。 柴田:千春社長ご自身が、これから成し遂げたいことについて教えていただけますか? 千春社長:私たち「能作」は、真鍮の製造から始まった、「高岡銅器」の産業を受け継ぐ会社で。その原点ともいえる、仏具や茶道具、華道具を、今も大切に作り続けています。伝統としてずっとつないできた職人たちの技術に敬意を払い、これらは今後も絶対に絶やしてはいけないなと。また一方で、業種の垣根を超えたコラボレーションや、新たな素材を使用するなどのチャレンジも、引き続き積極的に行っていきたいです。革新も続けていかないと、伝統を残すことはできないので。 柴田:まさに伝統と革新ですね。 千春社長:あとは、富山県の発展のためにも、「能作」の認知度の向上をもっと図る必要があると思っているので、私たちのことを伝える場を一つでも多く作りたいです。その上で、私の世代で何をしなければいけないかというと、やはり自分たちの作る製品を世界に届ける、ということなんじゃないかなと。 柴田:国内だけでなく、海外にも。 千春社長:それから働きやすい環境作りはもちろん、「つなげる」ということを意識して、今後も活動していきたいなと。技術をつなぐ。人をつなぐ。歴史をつなぐ。意志をつなぐ。従業員同士をつなぐ。いろんな意味が込められた「つなぐ」は、私が一番好きな言葉でもあるのですが、父のやってきたことや意志を、これから先の人たちにつないでいくことが大切だと考えています。 柴田:会長は、いかがですか?僕は、会長がこのまま隠居するとは全く思えないんですが。 克治会長:新しいことをどんどんやりたいという気持ちは変わってないので、まあ、あくまでも千春の補佐をしながら・・・。 千春社長:いやいやいや。私たちは自分たちの得意分野、不得意分野をお互い十分に理解し合っているので。会長のプロダクトデザインに関する能力や感性というのは、私には到底かなわないと認識しています。なので私は、会長のデザイン力を活かしながら、ものを伝え、広げ、新しく事業化していくことに尽力していきたいなと。これからも、お互いのいいところをうまく引き出しながら、それを両輪でさらに広げていく。そういうことを叶えていけたらと思っています。 柴田:会長と社長の両輪でますます前進していく能作さんから、今後も目が離せそうにありません。今日は貴重なお話をありがとうございました。 5月22日(水)-28日(火)の期間、1階スペース・オブ・ギンザでは富山の伝統と、ものづくりをお届けする、「BEAUTIFUL MIND Cafe Stand & Event Space」が登場します。 「BEAUTIFUL MIND」の象徴として誕生した〈能作〉の「風鈴 -アンブレラ」の先行販売のほか、職人による実演、トークショーなど様々な展示やイベントを行います。ぜひお立ち寄りください。 BEAUTIFUL MIND Cafe Stand & Event Space 5月22日(水)-28日(火) 1階スペース・オブ・ギンザ

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【事前予約制】トークショー「100年先も続く伝統産業へ。〈能作〉が取り組むSDGs」 参加費:100円 座席定員:15名様 ※満席の場合もスタンディングでご覧いただけます。 ※参加費は、能登半島地震の義援金として、日本赤十字社を通して被災地へ寄付させていただきます。 日時:5月25日(土)午後1時から(約50分) 登壇者:〈能作〉代表取締役社長・能作千春氏、松屋銀座 生活デザイン部 蓑輪正太郎 1916年に富山県高岡市で創業した鋳物メーカーの5代目社長に2023年就任された能作千春氏をお招きし、伝統工芸の業界の課題や、持続可能な地域や未来を見据えた数々の取り組みをお伺いします。

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◎デザインで魅せる。松屋と能作の装飾コラボレーション。
柴田:能作さんは、社屋から製品まで、様々なところに素敵なデザインが散りばめられているので、若い人たちにかっこいい会社と映ってもいるのでは?デザインの部分についてはどうお考えですか? 克治会長:僕は約20年前に代表になった時から、一番重要なのはデザインだと思っていました。そのさらに10年前の職人だった時代に、当時「デザインのデパート」として名を馳せていた松屋銀座さんに富山から視察に行ったのですが、売場に、同郷の高岡のつくり手が手がけた、かもめ型のブックストッパーが並んでいた光景が忘れられなくて。 柴田:今から30年くらい前のことですね。 克治会長:その時に「東京の松屋銀座さんでこういうものを展開している高岡の職人もいるんだ!」と、感動を覚えて。それ以来、銀座の松屋さんにうちの製品を並べることが、実は、僕の夢の一つにもなっていたんです。 千春社長:会長は今でも、プロダクトのデザインをどんどん行っているんです。会社としても、ものを作るだけではなく、見せることにも重きを置いているので、取締役に現役デザイナーを入れるなど、やはりデザイン経営を重視しています。 柴田:松屋銀座では、直営ショップの展開に加え、2022年に「百傘会」という傘の催事で、ウインドウディスプレイの装飾に能作さんの風鈴を使用させていただいただいたことをきっかけに、ショーウインドウでのコラボレーションが始まったんですよね。
2022年「百傘会」のウインドウディスプレイ
柴田:この時初めて会長とお会いして、能作さんが、ものづくりはもちろん、社会的に意義のある活動にも勤しまれている会社であることを深く知ることができて。「僕たちもこれからは、能作さんのような会社とともに、より良い未来に向けた取り組みを行っていく必要があるんじゃないか」と気づかされ、以来、様々な企画を共創させていただいています。 克治会長:2023年の「BEAUTIFUL MIND」では、デザイナーの佐藤卓さんがデザインを手がけ、うちで製作したネコとハートの箸置きを中心に、ウインドウのディスプレイの装飾をしていただいて。
2023年「つながる箸置 -ネコ-」
克治会長:ネコの口が歌ってるみたいに開いていたので、「これ、お香立てにもなるよ」って僕から提案したりして。 柴田:このゆるい感じがすごくかわいいんですよね。 克治会長:やっぱりうちとしては、「能作」というブランドを皆さんに知ってもらいたいという思いがあるので、松屋さんと一緒に、銀座という多くの方の目に触れる場所で、こういった取り組みができるのはありがたいなと思っています。 柴田:今回は、傘の風鈴をオーダーさせていただいて。傘って縁起物なんですよね。八本の骨組みから、末広がりみたいな意味もあって。あと、傘で雨などを避けるっていうのは人間らしいところもあるので、「寄り添う」というテーマもありつつ。 克治会長:薄さにもこだわって鋳造した結果、ちゃんといい音が鳴る風鈴に仕上がりました。大人の方に向けてということで、傘のデザインはちょっとおしゃれに深めに・・・いかがでしょう? 柴田:とてもいい感じですね。 克治会長:風鈴の音を鳴らすには、本体の下に短冊もつけた方がいいですよね? 柴田:そうですね。 克治会長:女の子の形にして、その子が傘を持っているように見えるデザインにするのはどうでしょう? 柴田:それ、すごくかわいくなりそうですね! 千春社長:では後ほど、デザインをいくつかご提案させていただきますね! 柴田:能作さんと打ち合わせしていると、こうやってアイデアを出し合っていく場面が生まれるんですよね。僕たちの注文に応えていただくだけでなく、いつも会話を通じてプラスアルファでアイデアを出してくださって。それがどんどんいい形に進んでいくんですよね。
2024年「風鈴 - アンブレラ」の完成品
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