松屋の地域共創 森林に囲まれた高知県のものづくり<土佐組子・戸田商行>

9月27日(水)-10月10日(火)各階
この秋は、松屋銀座で、未来につながる様々な体験をしてみませんか?「木育」イベントや紙漉き体験、ものづくりワークショップなど、「毎日ひとつ私と誰かにいいことを」をテーマに楽しみながら学び体験できる企画が盛りだくさんの2週間です。

日時:10月8日(日)午前11時から ※なくなり次第終了。
場所:1階正面ウインドウ前
漢字の「十」と「八」の字を組み合わせると「木」になることから、10月8日は「木の日」。当日、松屋のカード各種をご利用の上、税込15,000円以上(レシート合算可)お買い上げの先着100名様に、高知県の木材をつかった〈土佐組子〉組子キットをプレゼント。
※お一人様1回限り。

日時:10月9日(祝・月)・10日(火)各日午後2時30分から/午後4時から(各回約60分) 場所:7階特別室 参加費:500円、定員:各回12名様 豊かな大自然が広がる高知県は、森林率84%を誇る、日本一の森林県。そんな高知県で「木毛(もくめん)」を作る<戸田商行>が生み出した、木育ワークショップです。木に触れる機会が少なくなった今、改めて、その魅力と出合ってみませんか。 ◆10月9日(祝・月)午後2時30分から
◆10月9日(祝・月)午後4時から ◆10月10日(火)午後2時30分から ◆10月10日(火)午後4時から四国地方に位置する高知県は、土地面積の約8割が森林に囲まれた、森林保有率日本一の県。美しい山々に囲まれながら、仁淀川や四万十川、桂浜などの水源にも恵まれ、天然資源が豊富なことでも知られています。


左)土佐組子がある高知市春野町の風景。側に流れる甲殿川と山々に囲まれた自然豊かな場所です
右)山の森林は間伐することで陽の光や養分が循環していきます。
高知県産の木材を使用し、モノづくりを行っている株式会社土佐組子は、建具を制作する木工屋に生まれ、建築業界で学び組子細工の修行を経て独立した代表の岩本大輔さんが2016年に創業。「伝統と革新」をテーマに、全て高知県産の桧材を使用し、新たな組子の可能性を追求。多岐に渡る商品開発、海外への取り組みを通じ、土佐の組子を普及、発展する活動を行なっています。



左・中)組子工房の様子。美しい組子の試作品の数々が並べられています。
右)加工した繊細な木材は、全て職人の手仕事で組子に仕上がっていきます。
高知県の建具屋、「岩本木工」をご実家に持つ岩本さん。建築業界で学び、組子細工に興味を持ち修行。修行を終えた当初は、家業である建具の制作に取り組んでいたそうです。
「土佐組子を起業する以前は、親の元で制作の仕事をしていたのですが、実際には出来上がった図面が来て、材料の桧材も支給されたものをそのまま使うという状況で、自分が使っている木材が高知のどこの山から採れたものか、どういう経路で手元に届いているのか、そういった知識がほとんどない状態でした。しばらくやっているうちに、自らで自発的なモノづくりをして、PRもきちんと行った上で販売していきたい、そんな思いが強くなって。それで「土佐組子」を立ち上げました」。
土佐組子を立ち上げてから、組子・建具の双方に適した木材だという桧材についての知識はもちろん、高知県産の樹種や特性、材料の原価、そして林業全体が抱える課題や問題点などあらゆる状況を学んでいったと言います。 「土佐組子を立ち上げ、活動を通じ、使命として捉えていることの一つに「森の出口」という言葉を使っているのですが、木は山で育ち、伐採、製材され、最終的には何かしらの製品になって出ていきます。その出口にある製品をいかに価値のあるものとして伝えていくか。その点をきちんとやらないと、たとえ良い材料であっても製品を高く売ることができない。自分たちの仕事の役目は、高知の山を守り循環させていくという意味でも、林業を生業とする人たちから木材をなるべく高く買い、良いモノ作りを行った上で価値をつける仕事をするべきだと。これは組子を学んだ師匠の教えでもあるのですが、積極的に実践していくべきことだと考えています」。

「土佐組子」代表の岩本大輔氏。自ら納得のいくモノづくりをし、PR発信していく事の 大切さを語ってくださいました。
木材の産地に赴き、林業に携わる人々の話を直で聞くことで、山を保全しいかに産業を活性化させるか、そういった視野も広がったと言う岩本さん。高知県の林業の根幹が上手くいかないと、川下でモノ作りをしていくこと自体も成り立たってはいきません。そのためにも背景を見据えた上で、良いモノ作りはもちろん、自ら発信していくことが重要と感じています。実際に、土佐組子のモノづくりは木材の加工は全て手仕事による繊細な工程を経るからこそ繊細で美しい品質を保ち、国内の有名建築作品や希少価値の高いプロダクト、海外での展開など、この数年で多岐に渡る広がりを見せています。
高知県の木材を巡る環境や今回の松屋の地域共創について、更にもう少しお話を伺います。



上)組子の試作品。小さな立体の枠を無数に連ね、有機的で変幻自在な形状に
左)稼業でもある建具に組子をあしらった作品
右)こちらは組子の変化系。高級日本酒の外箱として製作されたもの。組子が順番に滑らかに開いていくさまは 特別感があります。
「木材に関連した生業同士の横の繋がりが多いことも高知ならではかもしれません。山々に隔たれているせいか、それぞれが分業として独立している。組子制作も高知では土佐組子だけですし、そういった点でも風通し良くコミュニケーションがはかれる所は良い部分だと思います。 松屋さんの地域共創は2回目の参加になりますが、今回はうちだけではなくて同じ高知県産の木材を使ったモノづくりをしている戸田商行さんと一緒にコラボレーションができ、裾野が広がる良い機会になったと思います。また、改めて地域共創ってなんだろう。と考えた時、土佐組子の活動を通じて高知の木のことを知ってもらい、木工も高知県のいろんな人々が携わっているので今回の戸田商行さんに限らず、横の繋がりを持つ参加者がどんどん増えて行くことが理想ですし、地域を盛り上げるという意味で更に発展に繋がると思います。そのためには、自分たちでこういうことをやりたい!というアイデアや実践も必要ですし、木工製品に限らず、食物や高知県が持つ様々な産業全体を立体的に発信していくことで、本当の地域共創に繋がっていくと思っています」。
木工のみならず、高知全体を自分たちの力で発信、アプローチしていくことへの重要性。岩本さんのお話からは、力強い想いが伝わってくるようでした。

土佐組子の岩本さんを中心に、松屋地域共創PJメンバーと 高知県林業振興・環境部の皆さんと。


左)高知県の土佐市にある戸田商行さん。敷地に入るとすぐに、木毛を体験できるラボ(倉庫)があります。
右)木毛に使用されるあか松の原木。水を散布して、状態の良い木材に仕上げるための下準備です。
昭和36年に創業した戸田商行さんは木毛を製造する企業。木毛(もくめん)とは、木を薄く削ってできた繊維状のもので主に贈答用の緩衝材などに使用されている素材です。元々山を歩き、木立の売買をする山仕だった初代社長の戸田光男氏が木毛の可能性を見出し、試行錯誤の上設備改良を重ねながら工場を拡大。国内随一の品質を持つ、木毛メーカーとして成長してきました。 現在社長を務める、戸田実知子社長は戸田商行のご子息と結婚、嫁いだことをきっかけに義理の両親から稼業を引き継ぎ、国内最後の木毛メーカーとして 精力的に活動をされています。 敷地内を入ってすぐ、木毛が積まれた大きなラボには、木毛ができるまでの解説や性能、高知県産の木材について解説した大きなパネルが展示され、訪れた人々が誰でも分かりやすく木毛を知ることができる工夫が。丁寧に伝えていくための、企業としての姿勢や想いが垣間見れるようです。代表の戸田実知子さんに詳しくお話を伺っていきます。



左)ラボに展示された木毛について学べるコーナー。
中)仕上がった木毛を触って、香りを嗅ぎ、素材が持つ性能について 学んでいきます。
右)木毛が積まれたラボの一角。古くから、さまざまな贈答品の緩衝材として木毛は使用されています。
「手探りしながら経営をしていく中、2018年頃から木育のための活動を始めています。きっかけはある小学校の子供たちとの触れ合いの中で、子供たちが木毛の桧の香りを嗅いだ時に、何か変な匂いがすると反応したことにショックを受けてしまって。日本は木の文化で、昔から住宅には木材が使われ、家具や調度品、檜のお風呂や食事の時のご飯を保存するお櫃など、長く愛用されているもの。
私自身、木に触れると癒されるし、日本人のDNAとして染みついた愛着のある素材だと思っていたので、この反応が進んでいった先、「木」そのものが使われなくなっていってしまうのでは、と危機感を持ちました」

戸田商行の代表、戸田実知子さん。稼業を引き継いでから経営面について精力的に学び、 次世代へ継承していくために日々活動されています。
木は根本的に持続可能なもの。植えて成長したら伐採し、使って、また植える。高知県は森林資源に恵まれ、木がたくさんある地域だからこそ、活用しないともったいない。木が持つ温もりや優しさ、そういった感性そのものをなくしていくのは寂しい。戸田さんのそんな想いから、木育へと繋がる活動は始まっていったと言います。
「木毛は緩衝材ということもあって、木が持つ本来の素材そのままの状態で消費者であるお客様たちに届きますよね。必ず直で触れてもらえる機会がある、ある種珍しい素材だと思います。そんな木毛の特性も含め、親しんでもらうための活動ができたらという思いで、工場見学も積極的に行うようになり、実際に 触れてもらい、香りを嗅いでもらう、そういった体験を大切にしています」



左・中)木毛を削る機械は創業時から受け継がれてきた大切な設備。手をかけ、継承し続けている。
右)仕上がった木毛を一反(要確認)にまとめる作業。最終的に人の手によって完成して出荷されていきます。
現在、木毛に使われる木種として1番多いのは高知県産のあか松で2番目が桧。全て高知県産の木を入手し、原木を寝かせたのちに加工し、木毛は作られていきますが、あか松の入手は年々困難になっている側面もあるそうです。
入手できるタイミングで多めに購入し、保存させながら維持をしていく。背景には一企業として抱える課題もありますが、行政や林業界と共に、こういったサイクルの課題に向き合い、きちんと山に還元して行く必要性があると戸田さんは考えています。



左)木毛の原料となるあか松の原木が積まれたコーナー。
中)原木は表皮を剥いだのち、大型の機械で半分にスライスされていきます。
右)機械で加工が終わった後の端材の山。この木材たちは乾燥させてのちに燃料として再利用・循環されていく仕組みです。
「森林面積が84%もある高知県は、いわば森林に囲まれて暮らしている県といえると思います。木毛自体は業界の中で、使用量も含めると決して多くはないですし、森林の活用そのものに影響力があるなどとは思っていません。でも、木材を長く扱っている企業であるからこそ、持続可能な資源をいかに活用して、循環・還元させて行くかということを真摯に考え、出来ることを実践しながら発信していく意義はあると思っています」
今回の松屋の地域共創のお話が届いたとき、銀座という東京の中でも特別感のある場所で、華やかなウィンドウディスプレイで木毛が使われ、展示されることがとても嬉しく、光栄に感じたという戸田さん。 現在2人の娘さんを持つ戸田さんですが、次女の娘さんは東京で暮らしており、次女に実家の木毛の仕事が銀座で展示されていることを観てもらえる!とも思われたそう。たくさんの人々の目に触れる場所で、木毛という素材を知ってもらえる事自体が大きな励みに繋がると話してくださいました。木毛を守り伝えていく使命の背景には、熱意と温かさ、そして遠く離れていても一番身近な存在である家族への想いが溢れている、そんなインタビューでした。

戸田商行の戸田社長、松屋地域共創PJメンバーと 高知県林業振興・環境部の皆さんと。
最後に、今回の取材に同席してくださった高知県林業振興・環境部 木材産業振興課 の小野田さんは高知県の林業の現在について、こんなお話をしてくださいました。
「技術的なことも含めて、高知県産木材の付加価値を高めていくための視点で言うと、今、業界としては若手同士の交流も増え、話が繋がりやすい環境にあると思います。製材を作る人材、建築士も世代交代し木材の素材も集成材や新しいものを作っていく若い同業者もたくさんいます。高知の県民性とも言えますが、開拓精神・まずトライして試してみる、そういったフットワークの良さも可能性がありますし、行政としても土佐組子さんや戸田商行さんの活動や今回の松屋さんの地域共創の発信力にもあるように、適宜一緒に出来ることがあると感じています」
森林面積が84%の高知県。なかでも桧の原木生産量は国内第1位。
高知県産の木材の良さは全国的に認識されているものの、物流コストの兼ね合いから販路としては関西・中京エリアがメインである現状との事。来年から国の環境資源の振興政策にあたる環境税の導入が行われ、SDGSの観点からも今後ますます国産の木材が多用されることが予測されるそうです。需要が増す一方で山を守り、資源を循環させて行くための課題解決をしながら、森林を枯渇させずに持続させて行くことも高知の使命だとお話しをいただきました。
・・・高知の地で木材を通じて真摯なモノづくりを続ける土佐組子さんと戸田商行さん。私たち松屋銀座の企画「BEAUTIFUL MIND」と地域共創を通じ、高知県の木材や背景にあるストーリーを知って頂ける機会となれば、とても嬉しく思います。どこかで高知県の木工製品や木造建築に触れたとき、感じる質感の良さやその背景、風土へ想いを馳せて頂けたら、それはもしかしたら、あなたにとってBEAUTIFUL MIND -ちょっといいことに繋がるのかも知れません。
戸田商行さんには10月9日(祝・月)と10日(火)の2日間、松屋銀座7階の特別室にてワークショップ「木を嗅いでみよう!木育ワークショップ&オリジナルサシェ作り」を開催していただきます。身近な木の魅力について、お話いただいた記事も近日公開されますので、あわせてお楽しみに。


土佐組子と戸田商行のコラボレーションによるウィンドウ。
組子の技術を活かし、小さな木材のパーツをつなぎ合わせたインスタレーションは パーツを繋ぎ合わせることで長くしたり、分割したりと変幻自在に形を変えることができます。
戸田商行の木毛がぎっしり詰まったステージには、木育を意識したギフトが。
端材が出にくい組子の特性や再利用可能な木毛で作られたウィンドウはSDGSの観点からも包括的に考案されています。

今回の高知県と松屋の地域共創の取り組みについて、詳しく解説されています。

松屋銀座地下1階から地下鉄の駅に直結する通路にも、 組子と木毛によるインスタレーションがウィンドウを彩っています。
撮影:井上昌明 Photo by Masaaki Inoue