こんにちは。
ごぶさたしております。松屋の「Dear J」こと、おいしいスタッフサブメンバーです。

クリスマスも間近ということで、今回はケーススタディーとして実用的なお話を。


突然、これまで思いを寄せていた人と食事の機会がおとずれ、お店を探さなくてはならなくなりました。ずっとその時間を求め続けていたにもかかわらず、いざとなるといろいろ考えてしまうのが、また楽しいところ。
せっかくなので、ワインが飲めるところを探しましょう。


「じゃあ、生!」
飲む相手を間違えました。
私が「ワインリストを・・・」と口に出すより早く、その人はオーダーをかけていました。
そう、「とりあえずビールで乾杯」派の人だったのです。忘れていました。

そんな遠慮のなさは、私たちの永きにわたって積み重ねてきた時間によるものであって、あの人のデリカシーのなさゆえではありません。この時間に過剰な思いをもって臨んでいるのは私の方だけなのです。

それは自覚していました。
先ほどメニューの端に認めたワインのヴィンテージが、「あの年」のものであることに気付いているのは私の方だけですし、あれからこの冬で6年の時が経ったことを記憶しているのも私の方だけなのです。

そんなあやふやな、危うく繋がった糸を手繰り寄せるように、あの人の記憶を、私のそれとほぼ同位へと誘導します。ワインという道具、歴史を遡ることのできる道具を使ってこそ可能な所業でしょう。

生ビールを2杯ほど重ねた後、ワインにしてみようと提案をすると、あの人はとても不思議そうな顔をして、しかしこれまでも何度か一緒に飲んだことがあるのでそう不可解ではないはずなのですがそれも忘れてしまっているのでしょう、でもそうして心の奥にしまってある、いや、閉じ込めてしまった記憶を引き出そうとする私には、ワインという道具が必要だったのです。

ワインには、ビールと異なり会話に広がりを生む効果というか、機能があります。
もちろんワインそのものが有する味わいや歴史などの蘊蓄もあるでしょう。
しかし私が思うのはそういった直接的な知識ではありません。なぜならワインの知識ならプロにまかせておけばよいし、万が一相手の方が詳しかったら悲しい気持ちになりますね。最悪なのは、ワインについて何の興味も持っていなかったとき。目も当てられません。

そんなマニアックである必要はないのです。そうではなく、「フランス」や「2000年」などを切り口に、「私」や「あの人」自身の話ができるのです。
『パリに行ったときにエッフェル塔を見に行ったのだけど、エッフェル塔には登らなかった。だって、エッフェル塔の中ってパリで唯一エッフェル塔が見えない場所。そんなもったいないことはできないんだ』とモーパッサンの逆を言ってみたり、『2000年ってミレニアムとか2000年問題とか騒いだね、「01-01-00」なんてカウントダウン時計もあったね、覚えてる?』などと、ワインそのものではなく、自分たちの身の回りのいろいろな話に広げることができるのです。

そうやって、二人が紡いできた時間をなぞるかのように思い出していき、あの頃の心の昂りを再現させようと努めていたのですが、ちょっと思い出させすぎたのでしょうか、あの時の仕打ちは絶対に忘れない、絶対に許せない、などと要らぬ思い出まで引っ張りだしてしまったのは大きな誤算でした。



そんなわけで、シャイで口下手な私でも話題を引き出すことのできるようにしてくれる「ひみつ道具」、それがワインだと思っています。みなさんは、もっと上手に使ってみてくださいね。



★予告★
春のワインフェア
2012年2月下旬開催予定 松屋銀座8階イベントスクエア
今回もとっておきの記念日ワイン、ヴィンテージをご紹介いたします。